遺言書に斜線を引くなら破って書き直せ!

image

文面全体に斜線を引く遺言書の効力が争われた裁判で平成27年11月20日最高裁判決が出ました。 斜線を引いた遺言書も文字が読めるので一審二審は有効とされていましたが、文面全体に斜線を引くという本人の意思は遺言書の効力を失わせる意思の表れとして最高裁はこれを無効としめした。 普段、書き直しとかで、文面全体に斜線を引くということはあると思いますので、最高裁の判決は妥当だと思いますが、それにしても紛らわしい。 相続が争族とならないように遺言書を作るのでしょうから、初めから紛らわしい遺言書を残しておくのはやめましょう!

※遺言書のイメージは日経新聞より取得

9月28日の判決 根拠のない裁判はいけません。

東京地方裁判所平成23年9月28日判決

事案の概要

本件は,拒絶しているにもかかわらず,警備会社の営業が合計500回以上も執拗に営業電話をかけてきたので,その苦痛により,妻が流産したとして裁判を提起した夫婦の主張が事実に反する内容で,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法なものであるとして,不法行為の成立が認められた事例。

前提事実

1 当事者

(1) 原告会社は,総合警備保障会社であり,原告X2は,原告会社の代表取締役。

(2) 被告Y1及び被告Y2は,夫婦である。

2 被告らは,原告会社を被告として,東京簡易裁判所に,不法行為に基づく損害賠償として10万円の支払を求める訴えを提起した。

その理由は,原告会社が,被告らに対し,合計500回以上営業のための電話をかけたことにより,被告らは苦痛を受け,被告Y1は,同年9月ころに流産するに至ったので、その慰謝料として10万円の支払を求めた。

3 第一審は,原告会社の被告らに対する電話による営業の頻度は必ずしも高いとは認められず,原告会社の電話により被告Y1が身体その他に損傷を受けたとまでは認めることができないとして,被告らの請求を棄却する判決を言い渡したところ,被告らが控訴をした。

4(1) 被告Y1は,控訴審の第1回口頭弁論期日において,履いていた靴の一方を脱いで,これを原告X2に対して投げつけた。

さらに,被告Y1は,被控訴人席にいた原告X2に近づき,他方の靴で原告X2の頭部を数回殴打した。

(2) 原告X2は,本件暴行の当日に受診し,全治一週間の頭部打撲との診断を受けた。
 

5 前訴事件の控訴審裁判所は,控訴を棄却した。

6 Yらの支離滅裂な主張に付き合わされた原告会社はついにYら相手に反撃の狼煙をあげた。

原告らの主張

1 前訴事件の提起の違法性

前訴事件において被告らが主張した権利又は法律関係は事実的根拠を欠くものであり,被告らは,そのことを知りながらあえて前訴事件を提起したのであるから,前訴事件の提起は,原告会社に対する不法行為となる。

ア 以下のとおり,被告らの主張は事実的根拠を欠く。

(ア) 原告会社は,被告Y1の依頼に基づき,平成20年8月25日及び平成21年11月2日に被告らにパンフレットを送付し,これに関連して数回営業電話をかけたことがあるのみであって,被告らが前訴事件において主張したような頻度又は回数の電話をかけたことはない。

(イ) 被告らは,前訴事件において,原告会社から執拗に電話がかかってきたため,被告Y1が精神的苦痛を受け,平成19年9月ころに流産した旨主張していた。しかしながら,被告Y1が流産したのは平成21年10月2日ころであり,被告Y1が平成19年9月ころに流産したことはない。

(ウ) 被告Y1が前訴事件において証拠として提出した診断書には,被告Y1の病名につき稽留流産と記載されているところ,稽留流産の原因の大半は,染色体の異常など胎児側にあり,母胎に原因がある場合は希である。よって,仮に,原告会社が被告らに電話をかけた事実があるとしても,当該行為と被告Y1の稽留流産との因果関係は認められない。

(エ) 前訴事件の第一審判決及び控訴審判決においても,被告らの主張は退けられている。

イ 被告らは,前訴事件における主張が事実的根拠を欠くことを知りながら,あえて前訴事件を提起した。以下の事実は,それを裏付けるものである。

(ア) 被告らは,原告会社以外の複数の会社等に対して,少なくとも4件,前訴事件と同内容の主張により損害賠償を求める訴えを提起している。

(イ) 被告らが前訴事件において証拠として提出した領収書によれば,被告Y1は,83万7380円を病院に対して支払っているにもかかわらず,被告らが前訴事件で請求した慰謝料額はわずか10万円であり,また,前訴事件の訴状には,6万円を振り込めば訴えを取り下げる旨が記載されている。

ウ 以上のとおり,被告らは,自らの主張した権利が事実的根拠を欠くことを知りながら,多数の者に対してあえて訴えを提起し,応訴者の経済的,精神的負担を避けようとする心理につけこんで,損害賠償金を取得しようとしたのであり,このような前訴事件の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法な行為である。

(2) 被告らによる原告会社の社会的信用の毀損

被告らは,上記(1)のとおり事実的根拠を欠くにもかかわらず,原告会社が,被告らに執拗に電話をかけ,被告Y1を流産に追い込んだ企業であるかのように主張して前訴事件を提起し,その訴状や提出した陳述書において,原告会社について「ストーカー」,「人命より金の方が大事な殺人企業である」と述べた。

また,被告Y1は,多数の傍聴人がいる法廷内において上記の主張を繰り返し,控訴審の口頭弁論期日においては,原告会社について「赤ちゃんを殺した殺人企業だ」と大声で叫び続けた。

被告らの上記各行為の結果,原告会社の社会的信用は著しく毀損された。

(3) 損害

原告会社は,被告らの前訴事件の提起及び上記(2)の各行為により,以下のとおり合計74万3085円の損害を被った。

ア 原告会社の担当者が,前訴事件の出頭及び訴訟準備のため,通常業務を中断したことによる損害 10万円

イ 原告会社が前訴事件において反論のために通話記録を精査するのに要した費用
(ア) 人件費 2万4875円

(イ) 経費 1万8210円

ウ 名誉毀損による無形の損害 50万円

エ 本件訴訟提起のための弁護士費用 10万円

(4) よって,原告会社は,被告らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償請求として,連帯して,上記損害のうち74万2960円の支払を求める。

2 原告X2の被告Y1に対する請求関係

(1) 損害

原告X2は,被告Y1の本件暴行により,以下のとおり合計53万3220円の損害を被った。

ア 治療費及び診断書作成料 2万9610円

イ 裁判所と病院間の往復交通費 1510円

ウ 服のクリーニング代 2100円

エ 慰謝料 40万円

オ 本件訴訟提起のための弁護士費用 10万円

(2) 本件暴行は,原告X2に対する不法行為であるから,原告X2は,被告Y1に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,55万円の支払を求める。

裁判所の判断

1 前訴事件の提起の違法性について

(1) 民事訴訟の提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
 

(2) まず,前訴事件における被告らの主張が事実的根拠を欠くものであるか否かについて検討するに,前記前提事実に証拠及び弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

ア 原告会社は,総合警備保障業務等を業とする株式会社であるところ,平成20年8月25日及び平成21年11月2日,被告らが経営すると称する「□□」及び「△△」に営業用パンフレットを送付し,原告会社の担当者が,当該パンフレットの送付に関連して被告らに数回電話をかけた。

イ 原告会社の担当者が,平成22年1月から同年3月までの間に,被告らに対して電話をかけたのは,同年1月9日の午前10時39分55秒から16秒間の1回のみである。

ウ 被告Y1が前訴事件において提出した証拠である平成21年10月2日付け診断書には,被告Y1が,稽留流産8週と診断された旨の記載がある。

エ 稽留流産とは,妊婦の気づかないうちに胎児が死亡してしまうというものであり,その大半は胎児の染色体異常や臍帯や胎盤などの異常が原因であって,妊婦に原因がある場合としては,子宮の異常や性感染症,高齢や外傷などの要因が考えられるが,妊婦に原因がある場合は非常に希であるとされている。

(3) 被告らは,前訴事件において,原告会社が被告らに対し,平成15年ころから平成21年9月末ころまでの間,1日に数回又は1か月に十数回,合計500回以上,被告らが拒絶しているにもかかわらず,営業のための電話をかけ,それが永遠に続いている旨主張したところ,これに対し,原告X2の各陳述書には,被告ら主張のような回数の電話をかけたことはない旨の記載がある。

そこで,検討するに,上記の被告らの主張事実自体が極めて不自然である上,上記(2)ア及びイのとおり,原告会社が被告らに対して営業のため電話をかけたのは,平成20年8月から平成21年11月にかけて数回程度,前訴事件の提起の前後である平成22年1月から3月の間においては1回のみであること,また,前訴事件の提起までに原告会社と被告らの間で何らかの紛争が生じていたことはうかがわれず,むしろ,被告Y1が,平成21年11月2日ころ,原告会社の営業担当者からの電話において,原告会社の業務に関して質問し,営業担当者とやり取りをした上で,原告会社から被告らにパンフレットがファクシミリ送信されたことがうかがわれること(甲2)からすれば,上記の原告X2の各陳述書の記載は信用することができ,原告会社が,被告らに対し,平成15年ころから平成21年9月末ころまでの間に電話をかけたのは,上記(2)アの数回のみであって,1日に数回又は1か月に十数回,合計500回以上の電話をかけた事実はないと認められる。

また,上記(2)ウのとおり,被告Y1が稽留流産した事実があるとしても,稽留流産の一般的原因からすれば,上記(2)アの数回の電話をかけた行為がこれを招いたとは考えられず,同行為との間に因果関係は存在しないというべきである。

したがって,前訴事件における被告らの主張は,その事実的根拠を欠くものである。

なお,原告会社は,被告らが前訴事件において平成19年9月ころに被告Y1が流産した旨主張していたと主張するが,被告らは,前訴事件においては,上記流産の時期を平成21年9月と主張していたと認められる。

(4) 上記(3)のとおり,原告会社が被告らに対し,平成15年ころから平成21年9月ころまでの間,1日に数回又は1ヶ月に十数回,合計500回以上営業のための電話をかけた事実はないのであるから,被告らは,このような事実がないことを当然に認識していたと認められるが,さらに,証拠によれば,以下の事実が認められる。

ア 被告Y1は,平成18年,東京都新宿区内の株式会社に対し,被告Y1の数十回の抗議にもかかわらず,上記会社から合計500回以上の営業の電話が連日かかってくるため,妊婦である被告Y1が身体的及び精神的苦痛を受けた旨主張して,不法行為に基づく損害賠償として10万円を請求する訴訟を東京簡易裁判所に提起し,同訴訟において,上記会社が請求金額の支払を希望したことから,同年3月16日,上記会社が被告Y1に対し10万円を支払う旨の和解に代わる決定(民訴法275条の2)がなされた。

イ 被告らは,平成22年,さいたま市大宮区内の株式会社に対し,被告らが拒絶するにもかかわらず,上記会社が,被告らに毎日営業のための電話をかけてきたため,被告らは苦痛を受け,被告Y1は流産するに至った旨主張して,不法行為に基づく損害賠償として10万円の支払を請求する訴訟を提起し,同訴訟において,同年10月19日,被告らの請求を全部認容する判決が言い渡された。なお,同訴訟において,被告がどのように応訴したかは証拠上明らかでない。

ウ 前訴事件において被告らが提出した準備書面には,被告らが提起した別件の訴訟があり,被告らが,同訴訟の「A」なる被告に対して,前訴事件と同旨の主張を行っている旨の記載がある。

エ 前訴事件の訴状には,原告会社が「6万振込ば反省したと理解し訴えを取下げる」,「弁ゴ士に10万払って更に原告に4万払った同類の会社があった」との記載がある。

(5) 上記(3)及び(4)のとおり,被告らは,前訴事件の主張が事実的根拠を欠き,これを認識しながら,あえて前訴事件を提起したと認められるのであるが,上記(4)のとおり,被告らは,原告会社以外の会社等に対しても,前訴事件と同旨の事実を主張して10万円程度を請求する複数の訴訟を提起していることも考慮すると,前訴事件の提起が著しく相当性を欠くことが明らかである。

以上によれば,被告らの原告会社に対する前訴事件の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められ,不法行為を構成するものというべきである。

2 被告らによる原告会社の名誉の毀損について

(1) 原告会社は,被告らの前訴事件における訴状や陳述書の記載や訴訟手続における発言の結果,原告会社の社会的信用が著しく毀損された旨主張するところ,被告らは,前訴事件において,第1回口頭弁論期日に,原告会社が被告らに対し「ストーカー電話をかけ続け」たとの記載がある訴状を陳述し,また,被告Y1は,前訴事件の控訴審第1回口頭弁論期日において,複数の傍聴人が在廷する前で,原告会社について「赤ちゃんを殺した殺人企業だ」と発言した。

(2) 被告らの本件各行為は,原告会社が,被告らに対して執拗に電話をかけ続けることによって,被告Y1の妊娠している子供を殺した旨の事実を摘示するものであって,原告会社の社会的評価を低下させるものであると認められる。

そして,前記1のとおり,上記摘示に係る事実は虚偽であると認められる。

そうすると,被告らの本件各行為が,前訴事件における訴訟行為の一環として行われたものであるとしても,被告らは,前記1のとおり,自己の主張が事実的根拠を欠くことを認識しながら,あえて前訴事件を提起したのみならず,著しく不適切な表現をもって,虚偽である上記事実を摘示し,原告会社の名誉を毀損したのであるから,本件各行為は,訴訟行為としても社会的に許容される範囲を逸脱したものであって,違法であるというほかなく,原告会社に対する不法行為を構成するものといえる。

なお,本件各行為のうち,前訴事件の控訴審第1回口頭弁論期日における「赤ちゃんを殺した殺人企業だ」との発言は,被告Y1がしたものであるが,被告Y2も被告Y1と共同原告として前訴事件を提起したことからすれば,上記の発言を含む本件各行為は,被告Y1と被告Y2が意思を通じて行ったものであって,被告らは共同不法行為の責任を負うと解するのが相当である。

8月12日の判決 自動車の自損事故による修理費用の保険金請求が認められなかった事例

 

 

東京簡易裁判所平成17年8月12日

 

 

 

事案の概要

 

自動車が自損事故により損害を受けたとして修理した費用の支払を自動車総合保険会社に求めた事案。

 

 

 

裁判所の判断

 

証言によれば,本件事故の傷は,真実は,同人が運転する本件自動車の左後部ドア側面部が,B院前道路脇の電柱に,ぶつかってできたものであると述べるが,本件事故の現場については,事故当時運転手であったとするAをはじめ,事故関係者が,被告会社に対し,本件事故現場の回答を二転,三転させたものである。
すなわち,最初の事故報告では,事故当日の5月6日,同乗者であった訴外Fが,Aの勤務する「渋谷区のCの会社の駐車場の壁」と答え,その後5月18日にAが,同会社の社長である「証人Dの足立区の自宅マンションの裏庭の駐車場の壁」と答え,Aの会社の上司で部長である証人Cも同マンションの駐車場の壁と答え,最後にAが「B院前道路脇の電柱」と答えた。

 

本来保険の適用を受けようとする者は,約款上の通知義務はもとより,信義誠実の原則に従い,保険会社に対して正直に申告する義務があり,そのことは保険約款の通知義務の根底にあるといえる。

 

しかしながら,本件でAが,事故場所を変える動機となったきっかけや,衝突場所を駐車場に変えた理由が,Aの供述によれば,同人が事故翌日に,友人訴外Gに電話で事故を報告したところ,「電柱を壊したら高額な賠償をされるからやばい。」と言われたことであったり,5月9日に本件自動車のディーラーである品川区のH社の訴外Iに報告した際には,同人から「事故から日にちが経っているから」とか,「電柱だと手続上面倒だから,駐車場にしておいたほうがよい」旨言われたりしたからだというものであり,Aは,それまで保険請求した経験もなかったことから,後日の被告側調査会社からの事故の照会に対し,軽い気持ちで虚偽の回答をしたというものである。

 

本件は,電柱に激突した事故ではなく,電柱に多大な損害を与えたわけでもないから,ことさら原告が事故現場である電柱を秘匿すべき特別の利益や事情はいささかも窺えないばかりか,Aは,事故後同人がすぐに報告したとするCから,Aが被告会社に事故現場を偽って報告したことにつき,ひどく叱責されたと述べているが,そのC自身,Aに対し,即刻事故現場の訂正報告を指示したと供述しながら,5月18日被告側査定調査員らの事故現場の照会に対しては,Aらと口裏を合わせるように,D社長のマンションの駐車場と答えた。最終的にはAをはじめ本件事故関係者らが被告に対し,本件虚偽通知を深く謝罪し,事故現場をB院前道路脇の電柱と修正したものの,当初は会社の関係者全員が,被告に対し,事故現場を偽って報告することに対し躊躇がなかったことが認められる。
すなわち,本件は,車の保険について知識がなかったA1人の軽率な判断で事故現場を偽ったなどという性質のものではなく,自動車を所有する原告の会社関係者やディーラー担当者などの助言などにより,それぞれの思惑から被告に対し,それぞれ虚偽の事故現場を申告するという,異常な対処方法をとったと言わざるを得ず,それら原告の関係者らの一連の行為は,約款上の通知義務違反はもとより本件保険契約において信義誠実の原則にも反していると言わざるをえない。

 

次にAは,本件事故の衝突物は最終的にB院前道路脇の「電柱」と答えているが,本件アジャスターである証人Eの証言によれば,本件事故の修理に関する協定が平成16年6月16日になされたことは間違いないものの,仮の協定自体は被告の有責,免責に関係なく締結されるものであるが,本件は,自動車の衝突箇所の損傷痕と衝突物との整合性に極めて疑問が残る事案であると証言する。
すなわち,Aの証言のとおり,本件自動車の衝突箇所が,電柱であるとすれば,本件自動車左後部ドア(リヤクオーター)付近に鮮明に付いた擦過痕及び線傷状の損傷は,本来突起物があるものに衝突したのでなければ付くことはあり得ず,同じくドアに付いていた三日月状の擦過痕も,E証人の証言によれば,ほとんどへこみのない擦過痕であり,仮に電柱への衝突であれば,三日月が埋まる横傷が付くはずであり,三日月状の擦過痕が付くことは,物理上あり得ないことが認められる。そうすると,A証人の,本件事故は本件自動車の後部左ドア側面部(リヤクオーター)が電柱にぶつかったという証言もにわかに信用することはできない。また仮にAの証言どおり,本件自損事故は,Aが運転操作を誤り,「電柱」に衝突した事故であるとしても,上記リヤクオーター付近に鮮明に付いた擦過痕及び線傷状の損傷は,別の事故で付いた損傷である可能性が極めて高いことが疑われる。

 

以上の認定事実を基に判断すると,本件自損事故に基づく保険金請求は,事故場所が二転,三転して申告されるという極めて異常なケースであり,その理由も保険金請求者にとって,事故現場を偽ることがいささかの利益につながるケースではない上,かつ,アジャスターによる調査結果報告書によれば,本件自動車の損傷痕跡は,電柱との衝突では生じ得ない傷であることも考慮すると,本件は,事故現場と事故態様の両方の虚偽通知の可能性も一概に否定できず,Aをはじめ,会社関係者の被告への事故報告内容は,非常にあいまいで,かつ矛盾があり,にわかに信用することはできない。本件は,保険規約上の違背に基づく通知義務違反であることはもとより,もはや社会通念に照らし信義則上許されない保険金請求であるといわざるを得ない。原告の請求は理由がない。

 

 

考察

 

下手なごまかしは止めた方がよいですね。自損事故などの場合,素人さんがシタリ顔でアドバイスをすることがありますが,所詮,素人の浅知恵。嘘はばれます。ごまかすと整合性が取れなくなり,ますますドツボにはまります。気を付けましょう!

 

 

自損事故