最高裁判所第3小法廷平成23年10月18日判決
無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合における当該物の所有者の追認の効果
考察
ある物件を処分した無権利者の行為を権利者が追認した場合には、かかる処分行為は無権代理行為の追認に関する民法116条類推適用により処分の時に遡って権利は移転する(大審院昭和10年9月10日判決)。
また、この判決を受けて、最高裁は無権利者が設定した抵当権設定行為についても所有者が追認すれば所有者のために効力を生じると判示している(最高裁昭和37年8月10日判決)。
このように物件的効力については、追認の効果によって遡って本人に帰属すると最高裁は判断していますが、債権的効力については本件で争われ、これを本件で否定しました。
事案の概要
本件は,ブナシメジを所有するXが,無権利者との間で締結した販売委託契約に基づきこれを販売して代金を受領したYに対し,同契約を追認したからその販売代金の引渡請求権が自己に帰属すると主張して,その支払を請求した事案である。
事実関係
Xは,Aの代表取締役であるBから,その所有する工場を賃借し,同工場でブナシメジを生産していた。
Bは賃貸借契約の解除等をめぐる紛争に関連して同工場を実力で占拠し,その間,AがYとの間でブナシメジの販売委託契約を締結した上,Xの所有する同工場内のブナシメジをYに出荷した。
Yは,本件販売委託契約に基づき,上記ブナシメジを第三者に販売し,その代金を受領した。
XはYに対し,YとXとの間に本件販売委託契約に基づく債権債務を発生させる趣旨で,本件販売委託契約を追認した。
そして,XはYに対し,追認により代金引渡請求権は無権利者のAではなく,自己に帰属するとして,本訴訟に及んだ。
原審の判断
Xが,上記の趣旨で本件販売委託契約を追認したのであるから,民法116条の類推適用により,同契約締結の時に遡って,Xが同契約を直接締結したのと同様の効果が生ずるとして,X請求を認容した。
裁判所の判断
原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。
なぜならば,この場合においても,販売委託契約は,無権利者と受託者との間に有効に成立しているのであり,当該物の所有者が同契約を事後的に追認したとしても,同契約に基づく契約当事者の地位が所有者に移転し,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解する理由はないからである。
仮に,上記の追認により,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解するならば,上記受託者が無権利者に対して有していた抗弁を主張することができなくなるなど,受託者に不測の不利益を与えることになり,相当ではない。
以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中Y敗訴部分は,破棄を免れない。ほ