10月16日の判決。携帯番号を勝手にクレーマーに教えたら30万!

大阪地方裁判所平成21年10月16日判決

被告タクシー会社が,同社のタクシー運転手であった原告に無断で,クレーマー(Xの乗客)に対し,同人の携帯電話番号を伝えた情報提供行為につき,会社は,原則として,業務上知り得た従業員の個人情報について,みだりに第三者に提供することは許されないとされ,被告タクシー会社のかかる行為は原告の「個人情報に係る法的利益ないしプライバシー権を侵害する不法行為」であるとして,繰り返しクレーム電話の嫌がらせを受けたことによる精神的苦痛に対する慰謝料30万円が認められた例

考察

運転手は元はと言えば自分が蒔いた種なのに逃げるからこうなったんじゃないの?

どうせならタクシー会社に協力を求めてクレーマー相手に裁判をすべきで、タクシー会社を相手にするのはお門違い。

クレーマーごときで仲間割れするのは馬鹿らしい。

タクシー会社も社員を守るためにもクレーマーには毅然とした態度を取らないとつけ上がらせてしまいます。お客様は神様ですと言うけれど、クレーマーは客かい?

裁判所の判断

原告は,平成19年3月初旬ころ,大阪市内の駅前第3ビル付近で,女性客から乗車を求められたが,同所が,乗車禁止区域であったため,手を振って,同客の乗車を断った。

なお,被告タクシー会社は,原告が本件女性客と以前から顔見知りであったと原告が言っていた旨主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,かえって,原告が以前に本件女性客を乗車させた際の状況に関する供述内容からすると,原告としても,本件女性客を以前乗車させて知ってはいたものの,特に顔見知りであるとまでは認められない。

その翌日ころ,乗車を求めた本件女性客から,被告タクシー会社,近畿運輸局,大阪タクシー協会等に対し,多数回にわたって,乗車拒否であるとのクレームの電話が架かった。

クレームを受けた関係機関等からの要請及び指導もあって,被告タクシー会社の渉外係であったA課長,B主任,C部長は,謝罪と説明をするために,本件女性客に会うこととした。

被告タクシー会社職員らは,本件女性客が指定した大阪市北区内の喫茶店で,本件女性客及び同伴の男性と会った。

被告タクシー会社職員らは,本件女性客に対して謝罪し,本件女性客が乗車しようとした場所が乗車禁止区域であることを説明して納得を求めたが,「以前に乗せたではないか」,「原告個人が直接謝罪せよ」「本人はなぜ来ないのか。あいつ(原告)は住所を知っているのに,自分が知らないのは不公平である,あいつの住所(携帯番号)を教えろ」など言って納得せず,その場から立ち去ることを許さない状況であった。

そこで,C部長は,原告に対し,1回来て欲しい旨電話で連絡し,その後も何度となく原告に連絡をしたものの,結局,原告は,面談場所に行かなかった。

被告タクシー会社職員らは,その場から立ち去ることのできない状況にあったことから,被告タクシー会社に対し,本件女性客が要望している原告の携帯電話の番号を教えてもいいかどうかを確認した。

D社長は,かかる状況の報告を受け,やむを得ず,本件女性客に原告の携帯電話の番号を教えるよう指示した。

被告タクシー会社職員らは,本件女性客に対し,原告の携帯電話の番号を開示した。

その後,2日ほどして,原告の携帯電話に,本件女性客からクレームの電話が架かった。

本件女性客は,原告に対し,「納得がいかへん」,「あいさつに来んかい」などと言った。

原告は,2,3回電話に出て,本件女性客に対し,これ以上電話をしないように言ったが,本件女性客は,その後も繰り返し電話を架けてきた。

もっとも,原告は,着信記録から,本件女性の電話であるとわかると,すぐに電話を切り,結局,本件女性と直接会話をしたのは,3回程度であった。

他方,原告は,自分の携帯電話番号について,本件女性客が知っていることを不審に思い,被告タクシー会社に対して釈明を求めたところ,平成19年3月10日,D社長は,原告に対し,本件女性客との面談の際,本件女性客から原告の住所を教えてくれるように言われたこと,面談が長引いており,本件女性客の要望に応じざるを得ないと判断し,被告タクシー会社職員を介し,A課長に対し,本件女性客に原告の住所を伝えるよう指示したことを認め,謝罪する旨の文書を手渡した。

原告は,さらに詳しい経緯を聞くためにD社長と会った際,同社長は,原告に対し,謝罪した。

原告は,本件女性客からの電話によるクレームが繰り返されたことから,警察に相談したところ,その後,本件女性客から電話は架かってこなくなった。

不法行為該当性

以上認定した事実関係からすると,原告の承諾を得ることなく,被告タクシー会社が原告の携帯電話の番号を本件女性客に対して提供した行為は,原告の個人情報に係る法的利益ないしプライバシー権を侵害する不法行為に該当すると解するのが相当である。

被告タクシー会社は,本件情報提供行為は,開示せざるを得ない状況及び事由があったと主張する。

そこで検討するに,証拠及び弁論の全趣旨によると,確かに,被告タクシー会社職員らは,本件女性客から執拗に原告の情報を開示するように求められ,提供しなければ,その場から立ち去ることが許されない状況にあったことが窺われる。

しかし,会社は,原則として,業務上知り得た従業員の個人情報について,これをみだりに第三者に提供することは許されないのであって,従業員の個人情報を第三者に開示・提供するに当たっては,少なくとも当該従業員の同意を得る必要があると解するのが相当である。

これを本件についてみると,上記認定した事実からしても,被告タクシー会社が本件女性客に対し,原告の携帯電話の番号を提供するに当たって,原告の同意を得ていたとは認められない。

そして,被告タクシー会社職員らは,本件女性客との面談中,原告と電話で話をしていることからすると,情報の開示提供に関して,原告の同意を得ることが不可能であったとも認め難い。

そうすると,たとえ被告タクシー会社職員らと本件女性客との面談が,上記のような状況にあったとはいえ,かかる状況をもって,本件情報提供行為が違法ではないとまではいえない。

原告の損害額

上記のとおり,被告タクシー会社の本件情報提供行為は,違法な行為であり,同行為によって,本件女性客は,原告の携帯電話に電話を架けてきて,原告が,しつこいから止めて欲しいと言ったにもかかわらず,その後も,繰り返し原告に対して電話を架け,「納得がいかない」,「謝りに来んかい」などと言ったこと,このような本件女性客のクレームの電話によって原告は,精神的な苦痛を被ったことがそれぞれ認められる。

他方,上記認定したとおり,原告は,本件女性客あるいは知人と名乗る男性からの電話に多くても3回は出て話をしたが,その後は,着信した電話番号により本件女性客等からの電話であるとわかるとすぐに電話を切り,本件女性客等と具体的なやりとりはしていないこと,原告が警察に相談をした結果,本件女性客からの連絡は止まったこと,D社長は,原告に対し,書面及び口頭で謝罪したこと,上記のとおり,被告タクシー会社職員らは,本件女性客及び同伴した男性から執拗に原告の情報を開示するように求められ,提供しなければ,その場から立ち去ることが許されない状況にあったことが窺われるなど被告タクシー会社にも一定の事情が認められること,原告には本件情報提供行為によって特段財産的な損害が発生したと認めるに足りる証拠は認められないこと等諸般の事情を総合的に勘案すると,本件情報提供行為によって原告の精神的な苦痛を慰謝するには30万円が相当である。