10月10日の判決高史と七子はドーベルマンを飼ってはいけないのに飼っていた。

東京高等裁判所平成25年10月10日判決

高級マンションの敷地内での犬の咬傷事件を原因として被害者に係るマンションの専有部分たる居室の賃貸借契約が中途解約されて空室となった場合において、当該マンションの別の居室内で犬を飼育していた居住者が、空室となった居室の賃貸人に通常生ずべき賃料相当額の損害を生じさせたことにつき民法718条1項及び709条に基づく損害賠償責任を負うとされた事案。
ニュースにもなりました。

考察

ワンころの飼い主さん,周りに目がいかない人は困りもの!
以前,私が借りていた駐車場の前にペットショップがあって,私の車の出るところに平気で自分の車を止めて邪魔をして,どかしてくれと注意しても,開き直ってこちらに文句を言ってくるバカがいました。
あんた誰に文句言ってるの?!と言う感じですが,周りが見えないのでしょうね。
ワンころ,私も子どものころから飼っていますので,ワンころは好きですが,ワンころにしか目が行かず,周りが見えない飼主は困りますね。

主   文

一 (1) 一審被告高史及び一審被告七子は、一審原告に対し、連帯して1725万円並びにうち500万円に対する平成23年7月1日から、うち175万円に対する同年10月1日から、うち175万円に対する同年11月1日から、うち175万円に対する同年12月1日から、うち175万円に対する平成24年1月1日から、うち175万円に対する同年2月1日から、うち175万円に対する同年3月1日から、及びうち175万円に対する同年4月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 一審原告の一審被告高史及び一審被告七子に対するその余の請求を棄却する。
二 一審原告の一審被告会社に対する控訴を棄却する。
三 一審被告高史及び一審被告七子の控訴をいずれも棄却する。
四 第二項の控訴費用は一審原告の負担とし、前項の控訴費用は一審被告高史及び一審被告七子の負担とし、その余の訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを5分し、その2を一審被告高史及び一審被告七子の負担とし、その余を一審原告の負担とする。
五 この判決は、第一項の(1)に限り、仮に執行することができる。

事案の概要

本件は、一審原告が、一審被告高史及び一審被告七子の飼育していた犬の咬傷事故が原因となり、一審原告の賃貸物件の賃借人(佐藤)が退去して得べかりし賃料収入を喪失したなどとして、一審高史及び一審被告七子に対しては民法718条1項又は同法709条に基づき、上記両名に住居を使用させていた一審被告会社に対しては民法709条に基づき、損害金5220万0155円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案。

裁判所の判断

前提事実

平成23年5月21日午後5時半ころ、本件マンションの居室04号室において一審高史及び一審被告七子が飼育していたドーベルマンを散歩させるため、上記両名の子(当時六歳)が本件マンション2階フロアの共用部分に本件犬を連れ出した際、本件犬が、子が持っていた手綱を振りほどくような形で3階フロアに駆け上がり、折から3階フロアの共用通路を歩いていた本件マンションの居室02号室の居住者である佐藤の妻夏子及びその子(当時4歳)に襲いかかり、夏子の右大腿部に咬みつき、夏子に11日間の通院治療を要する右大腿表皮剥離の傷害を負わせたこと、夏子及びその子はこの咬傷事故のために本件マンションに居住し続けることが困難な精神状態に陥り、その結果、一審原告と02号室を賃借して夏子らを居住させていた甲田社との間で、同年6月12日、同日をもって本件賃貸借契約を合意解除し、甲田社は同月末日限り02号室を明け渡し、一審原告は解約違約金(賃料の2か月分に相当する金額)の支払債務を免除することなどを合意したこと、以上の事実が認められる。

(2) 前記引用に係る原判決摘示の前提事実によれば、本件マンションの建物使用細則は、居室のみで飼育できる小動物を除き、動物を飼育することを禁止していることが認められる。

この禁止規定の目的は、本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全を確保し、快適な居住環境を保持するという本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の共同の利益を守ることにあり、合理性が認められる。この禁止規定に違反した結果この共同の利益が損なわれることは、本件マンションに居住する価値が低下することにつながるから、専有部分の区分所有者その他の権利者が有する財産上の利益も損なうことになると解するのが相当である。

特に本件マンションは、七戸という特定少数の入居者が外部から隔離された環境で生活する高級マンションであり、快適な居住環境が通常の居宅以上に重視されているのであって、このことが月額賃料の額にも反映されていると見るのが相当である。

したがって、本件マンションの居住者は、この禁止規定に違反してはならず、これに違反して動物を飼育する場合には、本件マンションの居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全等を損なうことがないように万全の注意を払う必要があり、飼育する動物が専有部分や共用部分の一部を毀損するなど、財産的価値を損なう行為をして専有部分の区分所有者その他の権利者が有する財産上の利益を侵害したときは、民法718条1項による損害賠償責任を負うほか、上記注意義務に違反したと認められるときは、同法709条による損害賠償責任も免れず、いずれにしても専有部分の区分所有者その他の権利者が財産上の利益に関して受けた損害を賠償する責任があるというべきである。

そして、動物の飼育者が上記注意義務に違反したために飼育する動物が本件マンションの共用部分において居住者に対して咬傷事故等を惹起し、被害者が恐怖心等により心理的に本件マンションの居室に居住することが困難になって賃貸借契約を解約して退去したときは、本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全を確保し、快適な居住環境を保持するという共同の利益が侵害されたといわざるを得ず、これによって発生する損害について不法行為による損害賠償責任を免れないところ、これを被害者に居室を賃貸していた賃貸人についていうならば、賃貸借契約解約に伴い次の賃貸借契約が締結されるまでの間通常生じ得る空白期間だけでなく、その影響が更に及び、次の賃貸借契約が締結されるまで相当の期間を要することとなり得ることを否定することはできないから、飼育する動物が専有部分や共用部分の一部を毀損するなど、財産的価値を損なう行為をして専有部分の区分所有者その他の権利者が有する財産上の利益を侵害したときと同様に、相当因果関係が認められる範囲で損害を賠償する責任があるというべきである。

以上のとおり、本件マンションの居住者が上記禁止規定に違反して動物を飼育し、飼育する動物が本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全を確保し、快適な居住環境を保持するという本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の共同の利益を侵害する行為をして専有部分の区分所有者その他の権利者が有する財産上の利益を侵害し、民法718条1項及び709条により損害賠償責任を負うべきときは、上記共同利益が侵害されて財産上の利益を侵害された者は不法行為の直接の被害者に当たるものと解するのが相当であり、動物にかまれた被害者の間接被害者に当たるものと解するのは相当ではない。

上記事実によれば、一審被告高史及び一審被告七子は、04号室において本件犬を飼育しており、本件マンションの建物使用細則の禁止規定に違反していたものといわざるを得ない。

なお、証拠によれば、一審被告会社は、平成23年2月7日、04号室の区分所有者である丙山社との間で04号室の賃貸借契約を締結した際、ドーベルマン一匹を室内で飼育することの許可を受けたことが認められるが、上記禁止規定の目的は本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全の確保等の共同の利益を守ることにあるから、丙山社の許可を受けただけで直ちに上記禁止規定による禁止が解除されたものということはできない。

 また、一審被告高史及び一審被告七子は、上記建物使用細則が、上記の禁止規定に続いて犬の飼育に伴う一定額の管理費の支払を定めていることから、同細則上も犬についてはその種類や大きさを問わずに飼育が認められていたかのように主張するが、同細則が、原則として動物を飼育することを禁止し、例外として居室のみで飼育できる小動物については飼育することができるとし、小動物を飼育する場合に上記の管理費に関する規定で管理費の支払を義務付けるものであり、あくまでも居室内のみで飼育が可能な小型犬を前提とするものであることはその文言から明らかであって、大型犬で屋外での散歩を日常的に必要とするドーベルマンがこれに当たらないことは明らかであるから、上記主張は採用することができない。

一審被告高史及び一審被告七子は、上記禁止規定に違反してドーベルマンを04号室内で飼育した以上、ドーベルマンが本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産に危害を加えないように万全の注意を払い、上記生命、身体、財産の安全に十分配慮し、もって、本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の共同の利益に反する結果を招来しないように配慮すべき注意義務を負っていたというべきである。

しかるに、上記のとおり、両名の子が本件マンション2階フロアの共用部分にドーベルマンを連れ出した際、ドーベルマンを制止することができない事態となり、本件マンションの居住者に上記の傷害を負わせたものであって、一審被告高史及び一審被告七子は、民法718条1項による損害賠償責任を負うほか、上記の注意義務に違反する過失があり、民法709条による損害賠償責任も免れず、本件事故によって専有部分の区分所有者その他の権利者が財産上の利益に関して受けた損害を賠償する責任があるというべきである。

一審原告は、甲田社に対し02号室を賃貸して賃料収入を得ていたところ、本件事故により本件賃貸借契約の合意解除に応じた上、解約違約金の支払債務を免除せざるを得ず、その後第三者に上記居室を賃貸して平成24年12月1日以降の賃料収入を得るに至るまで17か月を要し、その間賃料収入を得ることができなかったのであるから、一審原告は、実際に喪失した賃料収入相当額を上限とし、本件事故と相当因果関係が認められる範囲で賃料相当額の損害賠償を請求することができるというべきである。

なお、一審原告は、当審において、同日以降の従前の賃料月額175万円と第三者に賃貸した賃料110万円との差額も損害となる旨主張するが、差額が生じているとしても、これをもって、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるに足りる証拠はない。
また、一審原告は、平成23年7月1日以降の電気・水道月額基本料金として一か月当たり7581円の損害が生じたとも主張するが、その支払及び金額を認めるに足りる証拠はない。

そこで、賃料相当額の損害賠償に関して相当因果関係が認められる範囲について検討するに、確かに、本件賃貸借契約には賃借人が2か月の予告をもって解約の申入れをすることができる旨の定めがあり、この予告に代えて2か月分の賃料相当額を支払って即時に解約することができることが定められているので、本件賃貸借契約上の債権債務の清算は上記の定めによって行われることになる。

しかし、本件賃貸借契約の解約は、賃借人の都合によるものではなく、本件事故のために被害者が本件マンションに居住し続けることが困難な精神状態に陥ったためであり、その結果、本件賃貸借契約を継続させることができなくなったためであって、一審原告にとっては、一審被告高史及び一審被告七子の不法行為により本件賃貸借契約の終了を余儀なくされたということができる。

このような場合にまで本件賃貸借契約が前提としていた賃借人の自己都合による解約と同視することは相当ではなく、本件事故により通常生ずべき賃料相当額の損害が生じたものと解することが公平の理念にかなうというべきである。

まず、本件賃貸借契約が定める2か月分の賃料額に相当する解約違約金に係る損害の発生は肯定すべきである。

この点に関しては、一審原告が受けた上記以外の損害を算定するに当たっては、区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全が確保されているはずの本件マンションにおいて、本件犬による咬傷事故が発生したという事態を軽視することはできず、このことは、その後本件犬の飼育が中止されたことのみで直ちに解消されるものではなく、本件事故の特質、態様、被害者の受けた被害の程度、本件マンションの特質等を考慮すると、上記の予告期間程度で新たな賃貸借契約を締結することが可能になるということは通常困難であり、更に相当期間の経過が必要であると考えられる。

また、本件賃貸借契約の合意解約後に到来する、一般的に新たな賃貸借契約締結が比較的見込まれる時期までの期間も考慮するのが相当である。以上の諸要素を総合考慮すると、02号室が空き家となった平成23年7月1日から平成24年3月末日までの9か月分の賃料相当額をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、これによれば、一審原告が本件事故によって受けた賃料相当額の損害は、1575万円となる。また、弁護士費用相当額については150万円の限度で相当因果関係のある損害と認める。

本件事案の特質に鑑みれば、遅延損害金の起算日については次のとおりに解するのが相当である。

不法行為による損害賠償債務は、不法行為の時に発生し、かつ、何らの催告を要することなく遅滞に陥る(最高裁昭和三七年九月四日第三小法廷判決)。

本件では02号室は賃貸借契約が存続する限り毎月月額賃料の収入を得られる賃貸物件であるところ、本件事故により本件賃貸借契約の終了を余儀なくされたことによって発生する賃料相当額の損害については、不法行為の時から月数が経過するに連れて損害が現実化する点に特質があるから、解約の場合に直ちに発生する解約違約金に相当する2か月分の賃料相当額については平成23年7月1日に遅滞に陥るが、同年9月1日以降平成24年3月末日までの7か月間に順次損害が現実化する月額賃料相当額については、平成23年10月1日、同年11月1日、同年12月1日、平成24年1月1日、同年2月1日、同年3月1日及び同年4月1日にそれぞれ遅滞に陥ると解するのが相当である。

また、訴訟の提起追行により権利を実現するために要する弁護士費用相当額については、原則どおり平成23年7月1日に遅滞に陥ると解するのが相当である。

したがって、一審原告が本件事故によって受けた損害は合計1725万円となり、一審原告の一審被告高史及び一審被告七子に対する請求は上記の金額並びにうち500万円に対する平成23年7月1日から、うち175万円に対する同年10月1日から、うち175万円に対する同年11月1日から、うち175万円に対する同年12月1日から、うち175万円に対する平成24年1月1日から、うち175万円に対する同年2月1日から、うち175万円に対する同年3月1日から、及びうち175万円に対する同年4月1日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。

三 一審原告の一審被告会社に対する請求について

本件マンションの建物使用細則が、居室のみで飼育できる小動物を除き、動物を飼育することを禁止していること及びこの禁止規定の目的は上記のとおりである。

上記のとおり、一審被告会社が、平成23年2月7日、丙山社との間で04号室の賃貸借契約を締結した際、ドーベルマン一匹を室内で飼育することの許可を受けたことが認められるが、上記禁止規定の目的は本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全の確保等の共同の利益を守ることにあるから、丙山社の許可を受けただけで直ちに上記禁止規定による禁止が解除されたものということはできない。

一審被告会社は、上記のとおりドーベルマン一匹を室内で飼育することの許可を受けて、ドーベルマンが本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全を損なう危険を作出したものというべきである。

しかしながら、一審被告会社は、民法718条1項にいう動物の占有者には当たらず、同条2項にいう占有者に代わって動物を管理する者にも当たらず、動物占有者を幇助した者にも当たらないから、同条に基づく損害賠償責任を負うものではない。

また、同法709条による損害賠償責任についても、本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全等を損なうことがないように万全の注意を払う必要があるのは、直接には一審被告高史及び一審被告七子であり、上記両名がドーベルマンが本件マンションの居住者等の生命、身体等に危害を加えないように万全の注意を払い、本件マンションの居住者等の生命、身体等の安全に十分配慮していれば、本件事故の発生を回避することができたということができるから、一審被告会社が、ドーベルマン一匹を室内で飼育することの許可を受けて、ドーベルマンが本件マンションの居住者等の生命、身体等の安全を損なう危険を作出したこと、一審原告が本件事故により受けた損害との間には相当因果関係がないというべきである。

したがって、一審原告の一審被告会社に対する請求は理由がない。

一審原告は、当審においても一審被告会社の責任を肯定すべき旨主張するが、採用の限りでない。

四 一審被告高史及び一審被告七子は、原審には弁論主義違反ないし釈明義務違反の違法がある、本件事故と本件賃貸借契約の解約違約金相当額の損害との間に相当因果関係はないなどと主張するが、当裁判所の判断は上記のとおりであり、いずれも採用の限りでない。

五 以上によれば、一審原告の一審被告高史及び一審被告七子に対する請求は上記の限度で理由があり、その余は理由がないから、一審原告の控訴に基づき、原判決中一審被告高史及び一審被告七子に関する部分を上記判断に符合するように変更することとし、原判決中一審原告の一審被告会社に対する請求を棄却した部分は相当であるから、一審原告の一審被告会社に対する控訴を棄却することとし、一審被告高史及び一審被告七子の控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。