10月9日の判決銀座の女に嵌められて。。。

東京地方裁判所平成25年10月9日判決

原告(銀座のクラブ勤務のホステス)が,客であった被告に対し,飲食等代金840万円を請求した事案である。本件では,①被告が本件飲食等についてカード支払分(31万円余)のほかに本件クラブ又は原告に対し支払義務を負っているか,②原告の請求根拠の有無,が争われた。裁判所は,原告が,本件クラブに,現実に840万円全額を支払ったと認めるに足りる証拠はなく,被告の署名等による飲食等代金の確認を受けた事実は見当たらず,また被告の840万円の飲食等の事実についての客観的直接的な証拠は存在しないとして,請求を棄却した事例

考察

それにしても、飛ばれたホステスさん、バンスが大変ですね。
原告さん、枕営業で嵌められましたか?
代理人の弁護士はホステスさんのお客なんだろうか?
もしかしてタダ働きさせられたりして。。。

事案の概要

本件は,銀座のクラブ勤務のホステスであった原告が,その客であった被告に対し,平成22年6月1日の上記クラブでの被告の飲食等代金のうち840万円を,立て替えた,あるいは原告被告間での売買契約が成立している,上記クラブから売掛金を請求する権限あるいは取立委任を受けているなどとして,上記840万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

前提事実

(1) 原告は,株式会社Aの経営する銀座のクラブ「A’」において,「X’」の源氏名で勤務していたホステスである。
本件クラブの経理は,平成22年6月1日当時,株式会社Aの監査役であったBが行っていた。

(2) 被告は,平成22年4月28日,被告と同じく⚪️⚪️出身で源氏名をCがホステスとして在籍していた本件クラブに行き,その後,同年9月ころまで数回にわたり,本件クラブで飲食を行った。

(3) 被告が来店した本件クラブにおいて,平成22年6月1日,原告の誕生日を祝うシャンパンタワーが実施された。

被告は,この際,本件飲食等の代金として,クレジットカードを用いて31万2120円を支払った(本件カード支払分)。

(4) 被告は,平成22年9月17日,原告から呼び出されて,東京都中央区所在の銀座東武ホテルに行き,その後に向かった羽田空港において,付いてきた原告からの要求を受けて,封筒又は葉書に「9/25に手切金として1年70万×12 840万を必ずおしはらいします。」「ぜったいうそはつきません。」「D,Eにはぜったい連絡しません。」「したときは,5000万払います。」「Y1」などと記載した。

争点

本件における主たる争点は,被告が本件飲食等について本件カード支払分のほかに本件クラブ又は原告に対し支払義務を負っているか(争点1),原告の被告に対する上記支払義務に係る請求根拠の有無(争点2)の各点にある。

(1) 争点1(支払義務の存否)について

(原告の主張)

ア 原告は,被告から,平成22年6月1日の約1週間前に,原告の誕生パーティーのためにシャンパンタワーの注文を受け,Bに対し,シャンパンタワーを注文した。

Bは,シャンパンタワーのためのドンペリロゼを注文した。

イ 被告は,平成22年6月1日,本件飲食等を行い,以下の債務を負った(ただし,下記②の250万円は原告と本件クラブが値引きすることとした額である。)。この際,被告は,一番高い酒を頼みたいと述べ,示されたメニュー表から,クリコバクリスタル(以下「クリコバ」という。)を注文した。
    ① ドンペリ 単価 15万円 20本 300万円
    ② クリコバ 単価150万円 2本 250万円
    ③ サービス料(上記①及び②の45%) 247万5000円
    ④ 消費税相当額(上記①ないし③の5%) 39万8750円
    ⑤ シャンパンタワー 10万円
    ⑥ その他の飲食代(セット料金,タイムチャージ等)26万2190円

ウ 原告と本件クラブは,上記イの①ないし⑤の合計の代金847万3750円を値引きして840万円とすることとした。

被告は,上記840万円以外の飲食等代金として,31万2120円をクレジットカードで支払った(本件カード支払分)。

これは,被告が本件クラブへの初来店時からCの客であったことから,Cの売上げとして処理されている。

被告は,上記840万円を個人的に大きな入金がある9月半ばに支払うと述べ,掛けで支払うことを希望し,原告もこれに応ずることとした。

エ 本件手切金書面は,本件飲食等代金の残金を被告が認めた書面というべきである。

(被告の主張)

被告は,本件飲食等として,原告が主張するドンペリ20本及びクリコバ2本とシャンパンタワーは注文しておらず,ドンペリ1本と店舗にキープしてあった焼酎やおつまみ等を注文し,その代金である31万2120円全額をクレジットカードで支払った。

被告が本件クラブの飲食等の代金を買掛けにしたことは一度もない。

(2) 争点2(原告の請求根拠)について

(原告の主張)

本件クラブは場所を提供するにすぎず,原告のようなホステスは個人事業主であるから,被告が原告を指名して行った本件クラブにおける飲食等について,原告被告間の直接契約が成立する。

仮に,本件クラブにおける飲食等につき客と本件クラブとの間に契約が成立するとしても,客を本件クラブに呼び売上げをあげるという本件クラブと原告との間の業務委託契約の内容として,原告の名前で客たる被告に売掛金を請求する権限が原告に付与されているか,原告が売掛金を回収することについて取立委任を受けていることから,被告に対し,売掛金の支払請求権を有している。

さらに,同様に客と本件クラブとの間に契約が成立するとしても,原告は,被告に対する売掛金840万円につき,平成22年9月に入金がなかったため,本件クラブに対し,Bからの借入金を原資として,これを立替払いしたから,被告に対し,立替金支払請求権がある。

売掛金の支払期は飲食発生月の翌々月末であるから本件の840万円の弁済期は平成22年8月末日である。

(被告の主張)

そもそも,本件クラブでの飲食等については,原告と本件クラブとの間で契約が成立するのであって,原告・被告間で契約が成立することはない。

原告が主張する,原告・本件クラブ間の業務委託契約や取立委任契約の締結事実の存在自体疑わしく,仮にあったとしても被告が上記業務委託契約に拘束される理由はないし,また,原告が本件クラブに対し立替金を支払ったとの事実も存在しない。

仮に,被告について,原告主張の飲食等が認められたとしても,1回の飲食等で840万円もの金額を請求するのは公序良俗に反する。

裁判所の判断

1 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) 被告は,平成22年4月28日から同年9月9日までの間,本件クラブに来店して飲食等代金を支払った。原告の記録によれば,本件クラブの飲食等代金として,同年6月1日(本件飲食等)の31万2120円の支払のほか,1回の来店において最大で26万2190円の被告による支払の記録があり,これらはCの売上げとして処理されている。これらの支払は,いずれもクレジットカード払いによるものであった。

(2) 原告は,Bに対し,事前に,平成22年6月1日のシャンパンタワーの実施を依頼し,被告の本件クラブ来店前にはシャンパンタワー等の準備がされていた。

被告は,同日,原告と同伴で本件クラブに行き,被告の到着後,当時東京都内で勤務していた被告の妹とその婚約者が来店した。

この際,原告と被告とが被告が注文したドンペリをシャンパンタワーに注いでいる写真が撮影された(ただし,このことから被告が注文したドンペリの本数を直ちに認定することはできない。)。

(3) 被告は,本件クラブの平成22年6月1日の営業終了後に原告と肉体関係を持ち,Bに対し,同月4日,原告と真剣に交際している旨などを記載した電子メールを送信した。

被告は,本件クラブに対し,約200万円を,本件クラブの原告に対する貸付金の弁済として支払った(被告は他の機会を併せて合計530万円を本件クラブ又は原告に支払った旨主張するが,これを認めるに足る領収証等の証拠はなく,直ちにかような事実を認めることはできない。)。

また,被告は,本件クラブの「G」から,「X’の貸付金を早々にお店に戻し」たことについて謝辞を述べる平成22年8月吉日付けの手紙を受領している。

(4) 妻子がいる被告が,原告と交際しながらさらに本件クラブの女性従業員と浮気をしたことが,被告が本件クラブに来店した最後の日である平成22年9月9日より後の日に,原告や本件クラブに発覚し,被告は原告から呼び出された。

原告は,被告に対し,同月17日,銀座東武ホテルにおいて,原告が店を辞めざるを得なくなっているなどとして,月70万円で3年面倒見るよう要求し,その途中からこの話し合いに参加したBも本件クラブのママが弁護士や検察庁,警察庁等の者と相談をしていることを告げるなどした。

被告は,九州への飛行機に搭乗するためにタクシーで羽田空港に向かったが,原告もこのタクシーに乗り込み,被告が居住する⚪️⚪️に行くなどと述べるなどしていた。

羽田空港において,搭乗予定の飛行機の出発時間間近になった被告は,最終的に1か月70万円として1年分面倒を見るとの原告の要求を受けて本件手切金書面を作成した。

被告は,同日の一連の会話を原告らに秘密で録音をしていた。

(5) 原告やBは,平成22年9月23日から同月25日にかけて,被告の携帯電話及び被告宅の固定電話,被告の勤務先に複数回電話を掛け,あるいは留守番電話に伝言を残すなどした。被告代理人弁護士は,原告らに対し,同月28日,被告への直接の連絡をしないよう求めるファクシミリを送信した。

原告は,被告代理人弁護士に対し,平成22年10月12日付けで,同年6月1日の飲食代金として,840万円を請求する書面を送付したのに対し,上記代理人から明細書の送付の依頼を受けたことから,同月11月1日ころ,本件クラブ名義の「6月1日」の御勘定明細書(以下「本件明細書」という。)を上記代理人に送付した。

本件明細書には,本件の原告の主張のとおり,ドンペリ20本で300万円,クリコバ2本250万円,サービス料247万5000円,シャンパンタワー代10万円などとし,値引き後の代金合計が840万円と記載されている。

本件明細書には,署名欄が存在するが,ここには「掛」と記載されているにとどまり,これを被告が確認したことを示す署名等は見当たらない。

(6) 原告が本件クラブの店則と主張するものには,現金又はカード払い以外の場合は客から必ず署名をもらうこととされ,飲食発生月の翌々月末の入金がない場合は係従業員の立替入金とすることとされている。原告が,本件クラブに対し,現実に840万円全額を支払ったと認めるに足る的確な証拠はない。

2 争点1(支払義務の存否)について

(1) 原告本人は,被告から事前にシャンパンタワーの注文を受けていたことから,本件クラブの者に依頼して,ドンペリ20本やシャンパンタワーの手配をし,本件飲食等時に被告から一番高いシャンパン2本の注文を受けたことからクリコバ2本を提供した,被告から,Cの売上げとされた本件カード支払分とは別に,シャンパンタワー等の代金は平成22年9月に収入があるから掛けにしてほしい旨言われたため,原告の売上げとして売掛金にしたなどと供述する。

しかし,そもそも,上記第2の1の前提事実及び上記1の認定事実のとおり,被告は本件飲食等についても本件カード支払分の支払をクレジットカードで行い,それまでの本件クラブでの飲食等の代金を全額クレジットカードで行っており掛けにしたことがないこと(なお,本件飲食等後の来店時も全額クレジットカード払いであった。),本件クラブの規則としても従業員が掛けでの支払を認める場合には必ず署名をもらうこととされている上,840万円という極めて多額であり,被告による他の来店時と比較して20倍以上の金額を請求する(しかも,原告の主張によれば,その支払期は平成22年9月半ばという本件飲食等時から3か月以上経過した日というのである。)にもかかわらず,本件飲食等の当時又はその直後ころに被告の署名等による確認を受けた事実は見当たらず,被告の840万円の飲食等の事実についての客観的直接的な証拠が存在しない。

そして,原告は,被告に対し,平成22年9月17日の本件手切金書面作成に至る話し合いの中においても本件飲食等代金については何ら触れるところはなく(原告の主張によれば,同日ころには840万円の弁済期が到来している可能性が高いことから,この支払について言及があってしかるべきであるが,これについての言及が全く見当たらない。),かえって,被告が本件クラブの他の女性従業員と浮気に及んだことを追及し続けて,被告に対し責任を取れなどと申し向けて3年間生活の面倒を見ることを要求し,最終的には手切金として月70万円の12か月分との内容で合計840万円を支払う旨の書面を作成させていること,本件手切金書面作成後にはじめて,原告が,被告に対し,本件飲食等代金として840万円を請求するに至り(一方で,原告は,飲食等の代金として請求をするようになってからは手切金名目での請求をしていない。),被告の署名等がない本件明細書を被告代理人に送付するに至っているといった原告による被告に対する840万円の請求過程にも照らせば,被告が本件飲食等の代金として本件カード支払分とは別に840万円の代金を負っていると認め難いと言うほかない。

加えて,被告は,本件クラブに対し,平成22年6月から同年8月までの間に,法的義務を全く負っていないにもかかわらず,原告の負担する本件クラブの借入金の返済として少なくとも200万円を支払っていることからすれば,上記支払当時に,本件クラブでの被告の飲食等につき残代金があると解するのは不自然と言わざるを得ない。

確かに,被告がシャンパンタワーの実施について何らの異議を述べずに,ドンペリをシャンパンタワーに注ぎ込んでいることから,被告がこれについて何らかの費用負担をすることになるかもしれないとの認識がなかったということはできない(この意味でシャンパンタワーに関する原告本人の供述はにわかに信用することはできない。)が,本件カード支払分の明細は不明と言うほかないこと,結局はシャンパンタワーの費用負担について被告と本件クラブ(あるいは原告)との間での明確な合意を認定することはできないことなどに照らすと,このことから直ちに本件請求に係る840万円の支払義務を認めることはできない。

そして,原告がクリコバの空き瓶2本を所持している事実が認められ,原告本人供述に沿う証人Bの供述や本件クラブの従業員等の陳述も存在するが,証人Bも平成22年9月17日の被告との交渉時にも売掛金について何ら触れていないことや,他の従業員の陳述書の提出時期やこれらの者との人的関係等にも照らすとこれらの供述等を直ちに信用することはできず,その他本件に現れた全証拠によっても,被告が本件飲食等の代金として,本件カード支払分の他に840万円の支払義務を負っていると認めることはできない。

(2) 以上によれば,被告は,本件飲食等の代金として840万円の支払義務を負うとする原告の主張は理由がない。

3 したがって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない(なお,本件飲食等の代金は,本件クラブが被告との契約に基づきその請求をすることができると言うべきであって,原告に第三者弁済等の法律上の原因が生じない限り,原告が直ちに被告に請求することはできないものと解すべきである。)。