東京地方裁判所平成24年10月5日判決 弁護士から犯罪利用預金口座等に係る情報提供を受けた金融機関がした預金口座の取引停止の措置が,犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律3条1項に従った適法なものであるとされた事例
事案の概要
オレオレ詐欺に使われた口座を凍結された名義人が,銀行に対して凍結された口座に入っている預金の払い戻しを求めた事案。
裁判所の判断
1 本件措置の適法性
原告は、単に弁護士からの情報提供があったというのみでは、「犯罪利用預金口座等である疑いがある」とはいえず、本件情報提供等には信用性がないから、本件措置は違法であると主張するので検討する。
振り込め詐欺被害者救済法の立法過程においては、被害者救済の実効性を確保する一方、口座名義人に対して債務不履行責任を負うリスクを金融機関に負わせないようにしなければならないが、具体的にどのような場合に同法3条1項の「犯罪利用預金口座等である疑いがあると認める」ことができるかについては、業界団体においてガイドラインを定めることが希望されるとの議論がされていた。そこで全国銀行協会においては、上記立法過程を受けて、金融庁、警察庁、預金保険機構等の関係官庁・団体とも調整の上で「振り込め詐欺救済法に係る全銀協のガイドライン(事務取扱手続)」を定めた。
本件ガイドラインにおいては、弁護士から、日弁連の統一書式によって、当該預金口座等が犯罪利用預金口座等として使用されている旨通報された場合は、それのみによって「犯罪利用預金口座等である疑いがあると認める」ことができ、当該預金口座等について取引停止等の措置を実施することとされている。
日本弁護士連合会においては、本件ガイドラインを受けて、上記統一書式を作成し、全会員に対し、これを周知するとともに、犯罪被害の事実を適切に確認し、同書式の注意事項にしたがって、積極的にこれを利用することを促している。
そして、同フォームの注意事項には、「全国銀行協会では、被害者代理人弁護士が日弁連の統一書式を利用して預金口座等の取引停止等の措置を求めた場合には、当該預金口座等が犯罪利用預金口座等である疑いがあるものと迅速に認定し、適切な措置を講じる取り扱いとしています。」、「金融機関は、弁護士の判断を信用して当該預金口座について取引停止等の措置を講ずる立場であり、当該口座名義人からクレームがあった場合の対応まではできません。
したがって、その場合のクレームは弁護士の責任において処理することを理解した上で本要請書をご利用下さい。」との記載がされている。
上記に認定の振り込め詐欺被害者救済法の立法過程並びにこれをふまえた本件ガイドライン及び日弁連の統一書式の作成・周知の経過に加え、弁護士が基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするものであり(弁護士法1条)、かつ高度の法的知識を有する専門家であることを併せ考慮すると、弁護士が、合理的な根拠や裏付け資料もないままに、日弁連の統一書式を使用して口座凍結等の要請を行うことはおよそ想定されていないというべきであり、弁護士の統一書式を使用した情報提供等は、極めて信用性の高い情報と評価されてしかるべきである。
そして、前記のとおり、振り込め詐欺被害者救済法の立法過程において、被害者救済の実効性を確保する一方、口座名義人に対して債務不履行責任を負うリスクを金融機関に負わせないようにしなければならないとの基本的な考え方が示されていることからすると、弁護士から日弁連の統一書式を使用した情報提供等を受けた金融機関が、上記記載内容が真実であるかどうかについて、当該弁護士に問い合わせて調査等をすることまでは期待されていないというべきである。
以上からすると、弁護士からの日弁連の統一書式により情報提供等がされた場合には、それのみで口座凍結等の措置を執るとする本件ガイドラインは、当該情報提供が明らかな客観的事実と齟齬しているなど、その内容が虚偽であることが一見して明らかであるような特段の事情のない限り、振り込め詐欺被害者救済法3条1項に従った適法なものというべきである。
本件情報提供等は、日弁連の統一書式を使用したものと認められ、その内容が一見して虚偽である等の事情を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件措置は振り込め詐欺被害者救済法3条1項に従った適法なものであると認められる。
2 本件措置の効力
原告は、遅くとも平成24年8月15日時点において、本件口座が犯罪利用預金口座等である疑いが解消していると主張する。
しかし、原告は、B弁護士の情報提供の信用性がないと主張するのみで、本件口座がどのように利用されているかについて、何ら主張立証しないから、本件口座が犯罪預金口座等である疑いが解消したと認めるに足りない。
かえって、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件口座については、同年8月20日にも、B弁護士とは別の弁護士から犯罪利用預金口座の疑いがあるとして振り込め詐欺被害者救済法3条1項の情報提供等がされていることが認められることからすると、本件口座は、いまだ犯罪利用預金口座等である疑いがあるものと認められる。
よって、原告の上記主張は、理由がない。
3 結論
以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
考察
オレオレ詐欺に口座を貸しておきながら、預金を返せなんて、厚かましいにもほどがある。