9月30日の判決 話題の政務調査費。スポーツ新聞はダメ!日経新聞はOK!

仙台高等裁判所平成23年9月30日判決

考察

酒食を伴う会合の出席費等はダメとか,新聞もスポーツ紙や株式新聞はダメだが,三大新聞はOKとか。小沢一郎氏の後援会費はダメとか個別事情をみるのはオモシロイ。

事案の概要

岩手県民が,平成17年度に岩手県議会議員であった者について,同人らは岩手県から交付を受けた平成17年度分の政務調査費の一部を違法に支出し,これを不当に利得したと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,岩手県知事に対し,上記岩手県議会議員に対して違法に支出した政務調査費相当額の金員の返還を請求するよう求めた事案である。

裁判所の判断

1 政務調査費の制度趣旨

地方自治法100条14項,15項の規定による政務調査費の制度は,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施行により,地方公共団体の自己決定権や自己責任が拡大し,その議会の担う役割がますます重要なものとなってきていることにかんがみ,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化し,併せてその使途の透明性を確保しようとしたものである。

そして,法100条14項は,政務調査費を「議員の調査研究に資するため必要な経費」の一部として交付する旨を規定するにとどまり,政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めることとしているが,これは,各地方自治体の実情に応じた運用を図るべく,条例等にその具体化を委ねることとしたものと解される。

2 本件使途基準

岩手県においては,法の上記規定を受けて,本件条例を規定し,本件条例を受けて,本件規程において,政務調査費の具体的な使途について基準を設けており,その内容は,法100条14項にいう「議員の調査研究に資するため必要な経費」の内容を具体化したものであって,地方自治法の趣旨に反するものではないというべきである。

3 「議員の調査研究に資するため必要な経費」とは

法100条14項にいう「議員の調査研究に資するため必要な経費」とは,その文言上,調査研究に直接用いられる費用に限られるものではなく,上記の政務調査費制度の趣旨にかんがみれば,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るために,調査研究のために有益な費用も含まれるというべきである。そして,県議会において,県民の意思を反映させるために県民の意思を収集,把握することは必要不可欠であり,議会活動及び県政に関する政策等について県民に対して的確な情報を提供することは,県民から,議員として調査研究すべき事項に係る情報を収集し,把握する,その前提として重要なものといえる。

4 本件使途基準の適合性判断基準について

以上によれば,本件各支出の適否の判断は,本件各支出が本件使途基準に合致しないか否かを基準に判断するのが相当である。

そして,本件使途基準は,調査研究費につき「議員が行う県の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費」,事務費につき「議員が行う調査研究にかかる事務遂行に必要な費用」と定めるなど,調査研究のための必要性をその要件としているから(前記認定),調査研究のための必要性が認められない支出は,本件使途基準に合致しないものとして違法になるというべきである。

政務調査費の財源が県民の経済的負担に依拠していることからいっても,その裁量には自ずから一定の限界があるというべきであり,当該支出に係る個別の事実から調査研究活動と県政との関連性を慎重に検討した結果,同支出に係る議員の判断に合理性があるということができない場合には,同支出につき調査研究のための必要性を認めることができず,本件使途基準に合致しないものして違法になるものと解するのが相当である。

収支報告書の記載に表れた事実等(研修会・物品の名称,書籍の表題等や研修会の趣旨・目的,講演者,講演の演題等)から調査研究のために用いられる可能性がないことがうかがわれる場合,あるいは,その可能性があるといい得ても,当該支出が調査研究のための必要性に欠けるものであったことをうかがわせる具体的事実が認められる場合にあっては,議員の調査研究に資する意見交換等が現になされたり,県政に関する具体的な調査研究が現にされたとか,それが予定されていたなどの特段の事情のない限り,調査研究のための必要性に欠けるもので,当該支出は本件使途基準に合致しない違法なものと判断するのが相当である。

5 広報費

本件使途基準における広報費は,情報提供活動に要する費用として規定されたものと解されるところ,当該費用は,調査研究に直接用いられる費用ではないものの,調査研究のために有益な費用といえる。

以上によれば,本件規程において,本件使途基準中に広報費の定めをおいたことは,法100条14項が普通地方公共団体の議会に与えた裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものとはいえないというべきである。

6 活動実績のない岩手県男女共同参画社会を目指す議員協議会会費

ほとんど活動実績がなく,納入された会費のほとんどが費消されずに翌年度に繰り越されていても,同会の活動に調査研究の実質がないとは認められない,会費は本件使途基準の調査研究費に該当するものといえ,違法ではない。

7 岩手県立大学新学長を歓迎する県民の集い会費

同集いは,ホテルの会場において,多数の出席者が酒食を共にしながら岩手県立大学新学長を歓迎する趣旨で催されたものであると認められ,かかる酒食を伴う会合への出席に政務調査費を支出するのはやむを得ない事由が存する場合に限られると解されるところ,本件全証拠によってもやむを得ない事由を認めることはできない。よって,上記支出は違法である。

8 フィリピン共和国名誉領事館開所祝賀会費

同祝賀会は,その名称や会費の金額,会の状況等からみて,酒食を伴う会合であったと認められるところ,かかる会合に政務調査費を支出するのがやむを得ない事由があったとは認められない。よって,上記支出は違法である。

9 原敬生誕150年記念祝賀会費

同祝賀会は,その名称からして,議員の調査研究に資する意見交換等がなされることが予定された会合とは認めがたく,収支報告書には,岩手ブランドの確立に関する調査事業の主な内容を「市場調査,栽培・製造現場調査,生産者からの意見聴取の為の調査等」と記載されているが,その調査事業と同祝賀会との関連性は不明である。そうすると,上記支出は,議員の調査研究に資する意見交換等が現になされたことなど特段の事情のない限り,調査研究のための必要性に欠けるもので,本件使途基準に合致しない違法なものと判断されるというべきところ,上記の特段の事情があるとは認められない。
よって,上記支出は違法である。

10 盛岡市スポーツ人の集い会費

同集いの式次第は,開会,挨拶,祝辞,乾杯,万歳三唱,閉会であった。同集いでは,併せて平成17年度のスポーツ振興功労者表彰式が行われ,同表彰式の式次第は,開式通告,表彰選考委員長報告,表彰,受賞者代表挨拶,閉式通告であった。
以上によれば,上記集いを主催した財団法人盛岡体育協会の目的は県政に関連があるといえるものの,同集いの式次第及び表彰式の式次第にかんがみると,同集いは酒食を伴う会合であるところ,かかる会合に政務調査費を支出すべきやむを得ない事由があったとは認められない。よって,上記支出は違法である。

11 事務所賃貸料・管理運営費

その賃借したとされる事務所の所在地は「盛岡市」であるところ,その所在地は,議員が代表取締役である株式会社Aの本店所在地でもあって,実際に事務所として使用され,その機能を備えていたかについては疑問を否めず,議員の陳述によっても,通信や郵便物の授受が行われていたとされているのみであって,事務所としての実態は不明といわざるを得ない。そうすると,上記支出は,上記の点が明らかにされない以上,調査研究のための必要性に欠けるものであったといわざるを得ず,本件使途基準に合致しない違法なものと判断されるというべきある。よって,上記各支出は違法である。

12 いわゆるスポーツ新聞ないし夕刊紙(東京スポーツ,ゲンダイ,フジ,レジャー新聞,日刊スポーツ,スポーツニッポン),株式新聞,日本経済新聞,読売新聞,毎日新聞,週刊誌

いわゆるスポーツ新聞,夕刊紙及び週刊誌は,一般に娯楽性が高い読み物といえるから,それらの購入に係る支出は,当該スポーツ新聞,夕刊紙及び週刊誌に議員の調査研究に資する事項が具体的に記載されていたことなど特段の事情がない限り,調査研究のための必要性に欠けるもので,本件使途基準に合致しない違法なものと判断されるというべきところ,上記の特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。よって,いわゆるスポーツ新聞,夕刊紙及び週刊誌の購入に係る支出は,本件使途基準に合致せず,違法である。

また,株式新聞は,投資をする者に対し,株式,投資信託,為替等の最新情報を伝えることを主たる目的とする性質の新聞であることからすると,県政との関連性が明らかではないといわざるを得ない。そうすると,株式新聞の購入に係る支出は,当該新聞に議員の調査研究に資する事項が具体的に記載されていたことなど特段の事情がない限り,調査研究のための必要性に欠けるもので,本件使途基準に合致しない違法なものと判断されるというべきところ,上記の特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。よって,株式新聞の購入に係る支出は,本件使途基準に合致せず,違法である。

一方,日本経済新聞,読売新聞及び毎日新聞の購入については,その新聞の性質上,県政との関連性が一般的に認められるというべきであるから,それらの購入費用の支出については,本件使途基準の資料購入費に該当し,違法ではない。

13 欅の会会費

欅の会とは,衆議院議員小沢一郎の政治活動に賛同し,さらなる飛躍を期待する会員相互の親交と研さんを通じ,自由で創造性あふれる自立国家の確立に寄与することを目的とし,岩手県中・県北に在住又は勤務する個人有志をもって組織される会であり,小沢一郎の政治活動を応援する会であると認められる。

同会の上記目的に照らせば,同会は政治家の後援会活動あるいは政治活動が主であるとの疑いがあるといわざるを得ず,同会において議員の調査研究に資する意見交換等が現になされたことなど特段の事情のない限り,調査研究のための必要性に欠けるもので,本件使途基準に合致しない違法なものと判断されるというべきである。しかるに,同会の参加により,国政に直結する情報を知ることができ,県議会の運営上有益であった旨述べるにとどまり,同会の活動内容に関するその他の証拠はなく,同会の活動内容及び実態は不明であるといわざるを得ず,上記の特段の事情があるとは認められないというべきである。よって,上記各支出は違法である。