9月11日の判決 ベビーシッターも労働者

東京地方裁判所平成25年9月11日判決 ベビーシッターも労基法上の労働者とされた事例

問題の所在

労基法116条2項は家事使用人を適用除外しているが、ベビーシッターも家事使用人として労基法の適用除外になるのではないか。

裁判所の判断

労基法116条2項が家事使用人を適用除外とした趣旨は,その労働が一般家庭における私生活と密着して行われるため,労基法による国家的監督・規制に服せしめることが実際上困難であり,一般家庭における私生活の自由の保障との調和上好ましくないという配慮に基づくものであり,この適用除外の範囲については厳格に解すべきであって,「その従事する作業の種類,性質等を勘案して,その労働条件や指揮命令の関係等を把握することが容易であり,かつ,それが一般家庭における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものでない場合には,当該労働者を労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできない。

被告Yの代表者宅においてベビーシッターとして勤務していた原告Xらの業務は一般的な家事使用人よりも限定的であり,労働条件や指揮命令の関係等を外部から把握することが比較的容易であったといえ,かつ,これを把握することが,家庭における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものともいいがたいとして,Xらを労基法の適用除外となる家事使用人と認めることはできない。

なお、勤務実態は下記のとおり。

(1)インターネットでベビーシッターを求人。内容は「個人宅でのベビーシッター/1歳女児の世話・スクールの送り迎え」「理事長自宅での1歳女児の世話・教育・インターナショナルスクール(週3回)の送り迎え。成長に合わせて色々な作法(挨拶・お返事など)も教えてくだされば,なお結構です。」。

(2) 勤務条件
 ア 所定労働時間
  ① 午前8時から午後4時
  ② 午後3時から午後11時
  上記①,②をそれぞれ1コマとし,月22コマ
 イ 所定休日 実質月8日ないし9日(実質週休2日に準ずる。)
 ウ 賃金
  ① 賃金額月額30万円
  ② 毎月15日締め当月25日支払
  ③ コマ数を超過した時間については,1時間当たり2000円
 エ 試用期間
  2か月
 
(3) 勤務体制の変更
 ア 常勤人数
  3名体制から4名体制に変更
 イ 所定労働時間
  ① 午前8時から午後4時
  ② 午後3時から午後11時
  ③ 午後11時から翌日午前8時
 
(4) 業務内容
下記のマニュアルに従って行っていた。
子供の育児のために「夢子の育児マニュアル」。
洗濯,クリーニング出し,ごみ捨て,掃除,布団干しといった家事に関して,「家事マニュアル」と題するマニュアル。
 
原告らの業務内容は,基本的には夢子のそばを離れずにその世話をし,それに付随する夢子の食事準備や洗濯等,各種幼児教室への送迎等が中心であったが,洗濯については,夢子の物と両親の物の洗濯が区別することなく行われ,また,ゴミ出しも夢子のゴミと丙川家のゴミを区別することなくほぼ毎日行われていた。
 
掃除やクリーニング出しについては,週1回掃除業者がまとめて行っていたが,ベビーシッターも,子供部屋や夢子が汚した部分の掃除はもとより,丙川夫妻の部屋を除き,リビングやキッチン,風呂場,トイレなどについては簡単な掃除をしており,掃除業者が出さなかったクリーニング出しを行うこともあった。
 
一般的な食事準備については,ベビーシッターのほかに雇用された派遣の料理人が中心となって行っていた。
 
そして,原告らの業務は,基本的には夢子から目を離さずに世話をすることが中心であり,これらの掃除,洗濯等の業務は,夢子が寝ていたり,ベビーシッターの引継ぎの際の重なっている時間などに行われていた。
 
なお,ベビーシッター交代の際には,担当時間における夢子の健康状態,食事や睡眠の様子等について引継ぎを行うなどしており,また,原告らベビーシッターは,連絡ノートを記載して,これを丙川夫妻に提出するなどしていた。

原告らベビーシッターの業務内容については,主として丙川夫妻がこれについての指示,指導等を行っていた。
 
また,原告らは,勤務するに当たって,タイムカードを記載することとされており,自らの出退勤時間を手書きでタイムカードに記載し,被告の財務部に提出するなどしていた。 
原告らのタイムカードに記載された出退勤時間は,おおむね別紙3及び別紙5の出社時刻欄及び退社時刻欄記載のとおりである。
 
また,被告においては,原告らの提出するタイムカードを集計して,ベビーシッターが設定された月22コマの勤務を超えるコマの勤務をした場合には,その残業時間を算定した上で,1時間につき2000円の残業手当を支払っており,残業手当の既払額は,別紙2及び別紙4の既払い額欄記載のとおりである。

(5) 4名体制への移行後
 
夢子は,幼稚園等の受験塾にも通っていたが,平成21年4月頃から通うようになったA塾の経営者であり精神科医でもあるA1先生から,被告代表者に対して,多数のベビーシッターが交代で面倒をみるという体制は,夢子の精神状態には好ましくなく,受験にもマイナスになる旨のアドバイスがあった。
 
その後,Bが,結婚を理由に被告を退職する予定になった。また,同年6月中旬頃,原告乙山は,被告代表者の夫から,退職希望の有無を確認するメールを受け取り,丙川夫妻の育児方法等に疑問を抱いていたことなどもあって,被告を退職することを決意して退職の意思を伝え,同年7月31日をもって被告を退職した。
 
被告代表者は,A1先生のアドバイスもあり,同年8月以降は,夢子のベビーシッターの体制を1名が中心となってこれを行うことを考えていた。
 
(6) 解雇
 
原告甲野は,同年7月6日,被告代表者から,同年8月以降はベビーシッターを1名体制としたい旨を告げられた上,住み込み勤務の可否などを尋ねられた。
 
原告甲野が,考えさせてほしい旨を告げるなどしたところ,被告代表者から口頭で解雇する旨を告げられた。
 
被告は,同月26日頃,原告甲野に対し,就業規則26条の規定により,同年8月5日をもって解雇することを予告する旨の同年7月6日付けの解雇予告通知書を送付した。
 
 
理由
 
家事使用人について,労働基準法の適用が除外されている趣旨は,家事一般に携わる家事使用人の労働が一般家庭における私生活と密着して行われるため,その労働条件等について,これを把握して労働基準法による国家的監督・規制に服せしめることが実際上困難であり,その実効性が期し難いこと,また,私生活と密着した労働条件等についての監督・規制等を及ぼすことが,一般家庭における私生活の自由の保障との調和上,好ましくないという配慮があったことに基づくものと解される。しかしながら,家事使用人であっても,本来的には労働者であることからすれば,この適用除外の範囲については,厳格に解するのが相当である。したがって,一般家庭において家事労働に関して稼働する労働者であっても,その従事する作業の種類,性質等を勘案して,その労働条件や指揮命令の関係等を把握することが容易であり,かつ,それが一般家庭における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものでない場合には,当該労働者を労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないものというべきである。
(3) そこで,本件についてみるに,前記認定事実によれば,原告らは,夢子のベビーシッターの募集に応募し,基本的にはベビーシッターとしての業務を行うことを前提に採用され,労働契約を締結し,その労働条件に関する労働契約書を取り交わしていること,原告らが就労後に実際に従事した業務には,夢子のベビーシッターとしての業務あるいはこれに付随する業務とはいい難い業務も含まれていたが,やはり業務の中心となっていたのは,夢子の面倒をみるというベビーシッタ一の業務であったこと,原告らベビーシッターの業務体制は,基本的には,3人体制又は4人体制で2交代制又は3交代制で行われており,1コマ8時間を単位とするシフトを組んだ上で,平成19年10月以降は,24時間体制で夢子の面倒をみるというものであったこと,原告らベビーシッターの勤務については,タイムカードによる時間管理が行われており,月22コマという所定のコマ数を超える勤務を行った場合には,被告の財務部がこれを集計して,原告らに支給する給与に残業代を計上して,これを支給していたこと,原告らベビーシッターの業務については,各種マニュアルに明示された上,主として丙川夫婦が指示,指導等を行っており,連絡ノートが作成されたり,月1回程度は,丙川夫妻やベビーシッター全員が集まってシフト決めや各種方針の決定等を行うための会議を行っていたことなどが認められる。
 
(4) 以上によれば,原告らの行っていた家事労働は,夢子の面倒をみるというベビーシッターの業務を中心とするものであり,その内容は,もちろん丙川家における私生活上の自由にかかわるものであるが,その程度は,広く家事一般にかかわる家事使用人よりも限定的であるということができる。
 
また,原告らの労働条件は,労働契約書によって明確に規定されており,その勤務態様も,3人体制又は4人体制で2交代制又は3交代制で行われ,労働基準法上の労働時間を意識した1コマ8時間という単位のシフト制を用いて組織的に行われていたものであり,とりわけ,その労働時間管理については,タイムカードにより管理されており,医療法人である被告を介して,給与支払に反映されていたのであって,原告らの労働条件や労働の実態を外部から把握することは比較的容易であったということができ,原告らの労働が家庭内で行われていることにより,そうした把握が特に困難になるというような状況はうかがわれない。
 
さらに,原告らベビーシッターに対する指揮命令は,夢子の親である丙川夫妻が主として行っていたが,各種マニュアル類の整備がされ,連絡ノートの作成や月1回程度の会議も行われており,そうした指揮命令が,専ら家庭内の家族の私生活上の情誼に基づいて行われていたともいい難い。
 
そうすると,原告らについては,その労働条件や指揮命令の関係等を外部から把握することが比較的容易であったといえ,かつ,これを把握することが,丙川家における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものともいい難いというべきであるから,原告らを労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないものというべきである。
 
 
 
考察
 
勤務内容をベビーシッターに限定した方が労働者性が認められ、曖昧な場合には家事使用人として労働者性が否定されるのも変な感じもするが、いずれにしても辞めさせ方には気を配る必要があります。