9月2日の判決 ワケあり物件と損害賠償

東京地方裁判所平成22年9月2日判決

判決の要旨

アバートの賃借人が大家に無断で第三者に部屋を又貸ししていたところ,第三者が部屋で自殺した場合,賃借人は賃料減額分相当の損害を賠償しなければならない。

考察

自殺などのワケあり情報は重要事項として告知義務があるので,物件の借り手が付きにくく,賃料の値下げを余儀無くされるし,大家にとってみれば踏んだり蹴ったりです。

その損失分は借主に負担させたいというのが人情で,この判決はその思いを汲み取った当然の判決といえます。

事案の概要

賃借人は大家の承諾を得ることなく,本件物件の全部を第三者に対し転貸し,又は占有をさせた。
第三者は,本件物件の浴室で自殺し,その遺体は友人により発見された。
本件物件は,新築のものであるにもかかわらず,第三者の自殺によってその価値が著しく低下した。すなわち,本来であれば賃料月額12万6000円で賃貸し得る物件であるにもかかわらず,自殺という事情があることにより,本件新規賃貸借においては賃料月額5万円でなければ賃貸し得ないこととなった。

裁判所の判断

賃借人又は賃借人が転貸等により居住させた第三者が目的物である建物内において自殺をすれば,通常人であれば当該物件の利用につき心理的な嫌悪感ないし嫌忌感を生じること,このため,かかる事情が知られれば,当該物件につき賃借人となる者が一定期間現れず,また,そのような者が現れたとしても,本来設定し得たであろう賃料額より相当低額でなければ賃貸できないことは,経験則上明らかといってよい。

また,特に賃借人が無断転貸等賃貸人の承諾なく第三者を当該物件に居住させていたような場合,賃借人に対し居住者の自殺といった事態の生じないように配慮すべきことを求めたとしても,必ずしも過重な負担を強いるものとはいえない。

賃借人は,賃貸借契約上,目的物の引渡しを受けてからこれを返還するまでの間,善良な管理者の注意をもって使用収益すべき義務を負うところ,少なくとも無断転貸等を伴う建物賃貸借においては,上記の点にかんがみると,その内容として,目的物を物理的に損傷等することのないようにすべきことにとどまらず,居住者が当該物件内部において自殺しないように配慮することもその内容に含まれるものと見るのが相当である。

したがって,本件物件において第三者が自殺したことは賃借人の善管注意義務の不履行に当たるというべきであるから,これと相当因果関係のある損害について,賃借人は大家に対し債務不履行に基づく損害賠償債務を負うことになる。

損害発生及び因果関係の有無並びに損害額
このように考えるならば,賃借人の上記債務不履行と相当因果関係のある損害としては,本件物件内で第三者が自殺したことにより特に必要となったものを含め,経年劣化による分を超過する原状回復費用がまず挙げられる。

本件物件を賃貸するに当たっては,宅地建物取引業法により,宅地建物取引業者は賃借希望者に対し自殺という事情の存在を告知すべき義務を負うと見られる。

そうである以上,告知の結果本件物件を新たに賃貸し得ないことによる賃料相当額,及び賃貸し得たとしても,本来であれば設定し得たであろう賃料額と実際に設定された賃料額との差額相当額も,逸失利益として,賃借人の上記債務不履行と相当因果関係のある損害ということができる。

ただし,上記のとおり,賃料額を低額にせざるを得ないのは物件内での自殺という事情に対し通常人が抱く心理的嫌悪感ないし嫌忌感に起因するものであるから,時間の経過とともに自ずと減少し,やがて消滅するものであることは明らかである。

本件物件は単身者向けのワンルームマンションであり,その立地は,付近を首都高速3号渋谷線及び国道246号線が通るとともに,東急田園都市線「○○」駅から徒歩2分とされ,都心に近く,交通の便もよい利便性の高い物件であることが窺われるところ,このような物件は賃貸物件としての流動性が比較的高いものと見られるから,上記心理的嫌悪感等の減少は他の物件に比して速く進行すると考えるのが合理的である。

このような事情を併せ考慮すると,本件における原告の逸失利益については,本件物件の相当賃料額を本件賃貸借と同額の12万6000円と見た上で,賃貸不能期間を1年とし,また,本件物件において通常であれば設定されるであろう賃貸借期間の1単位である2年を低額な賃料(本件賃貸借の賃料の半額)でなければ賃貸し得ない期間と捉えるのが相当と考える。

また,将来得べかりし賃料収入の喪失ないし減少を逸失利益と捉える以上,中間利息の控除も必要というべきである。

以上によれば,逸失利益については,277万8752円となる。
1年目:¥126,000*12か月*0.9524(ライプニッツ係数)=¥1,440,028
2年目:¥63,000*12か月*0.9070=¥685,692
3年目:¥63,000*12か月*0.8638=¥653,032
合計¥2,778,752