8月21日の判決 バカな教諭の主張が通らなかった事例
名古屋地方裁判所平成7年8月21日判決
自転車を通学する高校生にヘルメットの着用を義務付ける規則は違法でなく,ヘルメット着用の指導を教諭に命じたとしても教諭に対する不法行為に当たらないとされた事例
考察
本件事案の概要は下記の情報しかないので,そこから推測するしかないが,原告は,学校長から,自転車通学をしている生徒に対してヘルメットの着用を指導するよう命じられたことに腹を立てて本件訴訟に及んだようである。
原告の主張は,下記の通り。
① 自転車通学の生徒にヘルメットの着用を義務づける規則は違法である。
② 学校長が原告に対して,違法な規則を実施するよう命じているので違法である。
しかし,裁判所は大人の対応で,見事バカな教諭の主張を退けています。パチパチパチパチ。
特に,夏場のヘルメット着用は不快で頭がかゆくなるから強制すべきではないという主張をみると,こういう教諭に自分の子どもを教えて貰いたくはないかな。幼稚すぎてバカらしくなる。
判 裁判所の判断
一 請求原因1,2の各事実は,当事者間に争いがない。
二 本件へルメット着用指導の違法性について
1 高等学校は,生徒の教育を目的とする公共的な施設であり,その設置目的を達成するために必要な事項については,校長は,法令に格別の規定がない場合でも,校則等によりこれを規定し,実施することのできる自律的,包括的な権能を有するものというべきである。
そして,生徒の通学途中における交通事故の発生及びこれによる被害の増大を防止するために交通安全規定を定め,生徒がこれに従うよう指導を行うことも,校長の有する右権能の範囲内にあるものというべきであって,その内容が前記設置目的に照らして著しく不合理である場合を除き,違法とはならないものというべきである。
2そこで,本件について検討すれば,
(一)佐屋高校と最寄りの私鉄駅である名鉄佐屋駅との間には約一キロメートル,近鉄佐古木駅との間には約二・八キロメートルの距離があって,同高校の生徒の九五パーセント以上が自転車通学者であること,近鉄佐古木駅から佐屋高校までの通学路は国道一号線と国道一五五号線を相互に連絡する機能を果していて自動車の通行量が多いことはいずれも当事者間に争いがなく,成立に争いのない乙第七号証,弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証,いずれも弁論の全趣旨により原本の存在及びその原本が真正に成立したものと認められる乙第二号証,第三号証の一,二,第四号証並びに原告本人尋問の結果によれば,佐屋高校と近鉄佐古木駅との間の通学路は,右のような交通事情であるにもかかわらず,道路の片側にしか歩道が設けられていない部分があること,もう一つの主要な通学路である佐屋高校と名鉄佐屋駅の間の道路には,自動車の通行量が多いにもかかわらず信号も横断歩道も設置されていない交差点を横断しなければならない箇所があるほか,交通量はそれほど多くない所でも道幅が狭く見通しの悪い部分があること,過去数年間において,佐屋高校の生徒が登下校時に交通事故に遭遇する件数は年間一〇件以上に及ぶことが多く,その事故の中には生徒がヘルメットを着用していたために頭部への重篤な傷害を免れたものもあったこと,愛知県教育委員会は,つとに,各学校における交通事故防止のための重点目標の一つとして,自転車通学は重点可制とし,へルメットを着用するように指導することを掲げ,その旨を各県立学校長等に通知していること(昭和四五年四月一七日四五教学号外教育長)が認められる。
(二)右のとおり,佐屋高校では九五パーセント以上の生徒が自転車による通学をし,その通学路は,交通量か多いにもかかわらず歩道が設置されていない部分があるなど生徒の安全が確保されているとはいえない状況にあり,現に同高校の生徒で交通事故に遭遇する者も毎年相当数に上っており,中には,へルメットを着用していたために頭部への重篤な傷害を免れた事故例もあるという事実が存在することに加え,愛知県教育委員会も,県立学校長等に対し,生徒が自転車通学をする際にはヘルメットを着用するように指導すべき旨を通知していることにかんがみれば,自転車通学をする生徒が万一交通事故に遭遇した場合にその頭部を保護し重篤な傷害を防止することを目的とする本件ヘルメット着用規定は,自転車走行の場合のへルメット着用が道路交通法上義務付けられていないことや,原告の主張するように,へルメットの着用が生徒の意思に反し,生徒の自由を制限することになる場合があり得ることを考慮しても,著しく不合理な定めということはできないものというべきである。
さらに,原告の主張するように,ヘルメットを着用することが,特に夏期において不快なものであり,時には頭部等に皮膚疾患を起こす場合があるとしても,頭部を保護するためにヘルメットを着用するという手段自体は,例えば道路交通法において自動二輪車や原動機付自転車に乗る場合にその着用が義務付けられているなど,一般的に是認されているものであって,へルメットの着用に不快感が伴うものとしても,それは社会的に受容されているものというべきである。
(三)また,本件ヘルメット着用規定に違反した生徒に対しては,本件指導措置を講じることとしているが,右指導措置の内容は,既に認定したとおり,担任による指導や学校長による訓戒等を受けるほか,所定の反省文を提出し,違反が重なった場合には一定の期間徒歩通学をするというものであって,これらの措置は,身体に対し侵害を及ぼすなど,生徒に対し肉体的苦痛を与えるものとはいえないから,直ちに体罰に当たるものということはできない。
そして,生徒に対し,右のような指導措置を講じることが,教育の実践として,適切かつ有効なものであるか否かはともかく,生徒が万一交通事故に遭遇した場合にその頭部を保護し重篤な傷害を防止する目的のため,へルメットの着用を徹底させる方策として,このような措置を講じることが著しく不合理なものということもできないところである。
3以上によれば,原告の本件ヘルメット着用指導についての違憲,違法の主張はすべて失当というべきである。
三 原告に対する不法行為について本件ヘルメット着用指導が違法なものとはいえないことは,前記説示のとおりであるから,原告が,本件ヘルメッ卜着用指導は不要であって反教育的であると考えていて,鈴木前校長及び野呂現校長が原告に対しその実施を命じたことが原告の意に反するものであったとしても,原告が主張するような違法な権利侵害が行われたものということはできないから,原告の主張は失当である。
四 以上によれば,原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して,主文のとおり判決する。