8月5日の判決 株主総会決議を経ない役員報酬が支払われても適法な場合がある。

東京地方裁判所平成25年8月5日判決

 

 

事案の概要

 

株式会社である原告が,過去に代表取締役であった被告に対し,被告が任期中に株主総会の決議を得ることなく役員報酬を受けていたとして,会社法423条1項に基づいて役員報酬相当得額の損害賠償を求めた事案。

 

 

一 前提事実

 

1 当事者

原告は昭和27年2月7日に太郎が設立した会社。太郎には妻花子との間に,長女春子,長男秋夫,二女冬子がおり,被告は秋夫の妻。

 

2 太郎と花子の相続

ア 太郎が死亡し,太郎の財産はすべて妻花子が相続。

イ 花子は原告の代表取締役に就任し,その後死亡。

ウ 長男秋夫が原告の代表取締役に就任するも,その後死亡。

エ 秋夫を継いで被告が代表取締役に就任。

オ その後,長女春子が原告の代表取締役に就任。

3 原告の株主構成

原告は設立者である太郎と妻花子及び長女春子,長男秋夫,次女冬子及び秋夫の妻のみが株主である家族会社。

4 役員報酬の支払と株主総会の有無,株主の認識

ア 太郎の存命中から,株主総会も取締役会決議を経ることもなく,税理士との相談だけで太郎や秋夫に役員報酬が支払われており,このことについて,春子も冬子も認識していたが,株主総会の開催を求めたこともなかった。また,冬子は原告の確定申告書に経理責任者として氏名が記載されている。

イ 平成6年11月21日に太郎死亡。花子が原告の代表取締役に就任すると暫くの間は役員報酬の支払をしなかったが,その後税理士と相談の上役員報酬を支払うこととし,原告から役員報酬の支払を受けた。春子は,花子に対する役員報酬の支払について認識していたが,異議を申し出ることはなかった。

ウ 平成15年10月4日に花子死亡。秋夫が代表取締役に就任。原告の確定申告書には役員報酬を支払った旨の記載はないが,被告は花子が死亡する直前頃から原告の経理業務に従事し,原告から給与を得ていた。

エ 秋夫が死亡。被告は,亡秋夫の死亡後も引き続き原告の経理を担当するとともに,その他の業務も行っていたところ,税理士と相談の上,花子と同様に,収益の範囲で役員報酬を支払うこととし,原告が主張する役員報酬の支払を受けた。

オ 春子は原告が役員報酬を支払っていることを認識していたが,被告に対する役員報酬については異議を申し出ることはしなかった。

カ 東京家庭裁判所は,平成21年9月1日,被告の申立てに基づき,花子の遺産のすべてについて亡秋夫,被告に相続させる旨の記載がある亡花子名義の平成14年4月24日付け自筆証書遺言の検認をした(同裁判所平成21年(家)第6432号遺言書検認申立事件)。

キ 春子及び冬子は,同検認手続後,同遺言書の有効性を争う。

ク 春子は,原告の取締役として原告の株主全員を集め,春子,冬子,戊原西子を取締役に選任する手続をし,その後代表取締役に就任。

ケ 春子は,被告が原告から受け取った役員報酬を株主総会決議を経ない無効なものであるとして,原告の代表取締役として本訴訟を提起。

二 争点

原告において役員報酬に係る株主総会決議は存在しないが,役員報酬の支払いは適法か。

三 裁判所の判断

原告の被告に対する役員報酬の支払について,春子及び冬子は,その役員報酬が支払われた当時は,いずれも株主総会の不開催に異議も述べない経営に関心のない株主であり,実質的な株主とはいえないし,春子及び冬子はいずれも原告において株主総会を開催することなく一定の役員報酬が支払われていたことを認識し,これを許容していたといわざるを得ないのだから,実質的には,原告の株主全員の同意があったものと同視することができるといえる。

この点について,原告は,役員報酬は株主総会の決議により発生する請求権であり,原告においては,株主総会の決議がなく,また,定款の定めもないのであるから,役員報酬は発生せず,原告が支払った役員報酬を受領することは違法である旨主張する。

しかし,会社法361条1項が,取締役の報酬等の額については,定款に定めのないときは,株主総会の決議によって定めるとし,取締役の報酬の額の決定を株主総会の決議にかからしめている趣旨は,取締役の報酬の額について,取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために,これを定款又は株主総会の決議で定めることとし,株主の自主的な判断にゆだねているからであると解される(最高裁平成11年(受)第948号・同15年2月21日第二小法廷判決・判例タイムズ1172号96頁参照)。

そうすると,株主総会決議を経ないで取締役の報酬が支払われた場合であっても,株主総会決議を経た場合と同視できる事実が存在する場合,すなわち,株主総会決議に代わる全株主の同意があった場合には,上記趣旨を全うすることができるのであるから,当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情が認められない限り,当該役員報酬の支払は適法有効なものになるというべきである。

四 考 察 

判決の内容に関しては,形式的に株主総会の開催が無くとも,実質的には株主全員が報酬の支払いに関して何ら異議を留めなかったのであるから,株主総会決議を経たのと同視しうべきであるとして,特に目をひく議論ではないと思います。

それよりも,注目したいのは,平成15年10月4日に死亡した花子の自筆証書遺言の検認を花子死亡後6年経過した後に行ったことである。

死亡後6年も経過してから遺言書が出てくるとなると,誰もが「偽造」ではないかと疑いと思うが,ご多聞に漏れず,春子も「偽造」を疑い,これをきっかけとして,義理の姉妹間でバトルが勃発したようです。

秋夫が存命であるならば,このようなバトルは生じなかったかもしれませんが,秋夫亡き今,実家の経営を心配する小姑たちが引き起こしたバトルはどこの中小企業でもあり得ることなので,相続の際の遺産分割 は包み隠さず,綺麗に進めたいものです。せっかく花子が遺言書を作成したとしても,これでは無駄花ですからね。

団らん