秋田地方裁判所平成21年9月8日判決
問題の所在
取締役の任期が定められていない場合,正当な理由なく解任された取締役は泣き寝入りしなければならないのか。
任期が定められている場合には,解任されなければ残存任期中に得られたであろう取締役の利益(所得)の喪失の損害賠償責任を求める事が出来るので問題となる。
裁判所の判断
ア 会社法339条2項は,取締役の解任について株式会社が正当事由のあることを立証できない場合に,株式会社に対し,解任されなければ残存任期中に得られたであろう取締役の利益(所得)の喪失の損害賠償責任を認める特別の法定責任を定めた規定であり,具体的な任期があることが損害賠償請求権発生の要件と解される。
この点,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下,同法による改正前の商法を単に「旧商法」という。)257条1項但書では,「任期ノ定アル場合ニ於テ」とされており,任期の定めがあることが損害賠償請求権発生の要件であることが法文上明らかであったところ,上記会社法339条2項ではこれに対応する文言はない。
しかしながら,これは,旧商法下では,株式会社の取締役について任期が定められない場合があり得た(旧商法256条参照)ものの,会社法下では,そもそも取締役等につき具体的な任期がないという場合は想定されなくなった(会社法332条等参照)ために,敢えて任期の定めがあるという文言が置かれなかったにすぎないと解される。
したがって,上記会社法339条2項は,具体的な任期があることを損害賠償請求権発生の当然の前提としていると解するのが相当である。
イ 原告は,特例有限会社であり,取締役の任期につき定款上の定めがないことが認められる。
この点,廃止前の有限会社法の下では,取締役の任期につき法定の制限はなく,定款上任期を定めなければ,辞任・解任等がない限り,取締役であり続けたが,会社法の下でも,特例有限会社の取締役の任期については,従前どおりの規制が適用される(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律18条)。
これらによれば,被告について,取締役の具体的な任期があったとは認められない。
(3) 前記(1)及び(2)のとおり,原告による被告の取締役解任には正当理由があったと認められるし,仮に正当理由がないとしても,被告について取締役の具体的な任期がなかったのであるから,被告が主張する原告による正当理由なき取締役解任に伴う損害賠償金の発生は認められない。
考察
身内の役員で有限会社の場合,任期を定めていないケースが多いので,この場合,気にくわない役員を解任しても損害金を払わなくて済みます。