10月1日の判決 捕まったら弁護士!呼んで貰えなかったら5万円!

東京地方裁判所平成22年10月1日判決 

捕まったら警察官に言って弁護士を呼んで貰いましょう。呼んで貰えなかったら5万円貰えます!

事案の概要

窃盗被疑事件で逮捕された原告が,警察官に対し,弁護人選任の申出をしたにもかかわらず,警察官が弁護人に対する通知を4時間30分以上怠ったことにより,弁護人依頼権が侵害されたとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等の支払いを求めた事案。

主文

1 被告は,原告に対し,5万円及びこれに対する平成20年3月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

裁判所の判断

1 警察官が弁護士に対して通知を怠った行為は違法か。

憲法34条前段は,「何人も,理由を直ちに告げられ,且つ,直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ,抑留又は拘禁されない。」として弁護人依頼権を定めているところ,弁護人依頼権は,身体の拘束を受けた被疑者が自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものであるから,同規定は,被疑者に対して,弁護人を選任した上で,相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである(最高裁判所大法廷平成11年3月24日判決・民集53巻3号514頁参照)。

そして,憲法上保障された弁護人依頼権を具現化するものとして,刑事被告人については刑事訴訟法78条2項が,被疑者については同項を準用する同法209条が,身体の拘束を受けている被告人(被疑者)から弁護人選任の申出がされた場合,直ちに,被告人(被疑者)の指定した弁護士等にその旨の通知がされなければならないと定めている。

これらの規定からすれば,身体の拘束を受けている被疑者から弁護人選任の申出を受けた場合,捜査機関は,直ちに被疑者の指定した弁護人に対して通知を行う法律上の義務があるというべきであり,捜査機関がこの通知をすることを遅滞した場合には,公権力の行使に当たる公務員が違法行為を行ったものとして,国又は公共団体は,国家賠償法1条1項に基づきこれを賠償すべき責に任ずるというべきである。
  
認定事実によれば,警察署の司法警察職員は,平成20年3月7日午前10時17分ころ,原告から弁護士を本件被疑事件の弁護人に選任するとの申出を受けたにもかかわらず,同日午後2時34分ころまでの間,4時間17分もの長時間にわたり,弁護士に対する通知をしていなかったことが認められる。

そして,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,A巡査部長又はB警部補のいずれかは,弁護士に対する通知をしようと思えば,それが可能な状況にあったにもかかわらず,しなかったことが認められ,通知の懈怠について過失があったことが明らかである。

これに対し,被告は,弁護士に対して通知がされるまでの間に原告に不利な供述調書は作成されておらず,その後も原告は犯行を一貫して否認したままであったこと,弁護士は通知後多数回にわたり原告と面会しているから,原告の防御に具体的な不利益は生じていなかったと主張し,前記認定事実のとおり,原告は,犯行を一貫して否認し続けたことが認められ,弁護士に対する通知が遅れたことによって,原告の防御に具体的な不利益が生じたとまでは言えないが,そうであるからといって,通知の遅滞の違法が治癒されるものではないことは明らかである。

2 慰謝料額

原告の弁護人依頼権が侵害されたことによる慰謝料額については,前記認定事実,とりわけ,警察官は,故意に弁護人に対する通知を遅らせたとまでは認められないことを考慮すると,5万円とするのが相当である。

3 以上のとおり,原告の請求は,5万円の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。