最高裁判所平成22年10月8日判決
定額郵便貯金債権が遺産に属することの確認を求める訴えの確認の利益
判示事項
共同相続人間において定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えには、上記債権の帰属に争いがある限り、確認の利益がある。
事案の概要
遺産分割に際し、定額郵便貯金に係る貯金債権等が被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えを提起した事案。
相続人らは,本件債権が被相続人の遺産であることを争っている。
問題の所在
定額郵便貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,遺産分割の対象とならない以上,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その確認の利益は認められないはずである。
裁判所の判断
郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),預入金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。
同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにある。
ところが,定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。
他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。
これらの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
そうであれば,同債権の最終的な帰属は,遺産分割の手続において決せられるべきことになるのであるから,遺産分割の前提問題として,民事訴訟の手続において,同債権が遺産に属するか否かを決する必要性も認められるというべきである。
そうすると,共同相続人間において,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利益があるというべきである。
前記事実関係によれば,本件訴えのうち,本件債権がAの遺産に属することの確認を求める部分については確認の利益があるというべきである。
同部分につき確認の利益を認めた原審の判断は,結論において是認することができる。所論引用の判例(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁)は,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
考察
金銭債権は相続開始とともに相続分の割合で分割され、遺産分割の対象とならないが、定額郵便貯金については、共同相続人による相続分に応じた払戻請求が許されないので、定額郵便貯金については、実質的に遺産の準共有と同様な事態が継続することになるから、遺産の共有状態解消の手続である遺産分割の対象となる。