東京地方裁判所平成25年10月22日判決
考察
発信者情報開示請求は掲示板の誹謗中傷記事のみならず、著作権侵害にも使えます。
事案の概要
ニコニコ動画に掲載された動画が原告の著作権を侵害していると主張して,被告が保有する発信者情報の開示を求めた事案。
裁判所の判断
著作権侵害
原告は,本件動画は,原告動画の映像を複製して利用しており,とりわけ,本件動画のうち,本件動画の部分1及び4については,作製者の創意工夫が見て取れる部分を複製したものであるから,本件動画の本件サイトへの投稿は,原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害していることは明らかである旨主張する。
そこで,原告動画の著作物性について検討するに,①原告動画は,芸能人であり,原告の信者である⚪️⚪️らの体験談を紹介する内容の⚪️⚪️らに対するインタビューを中心に構成されたものであり,原告動画のうち,別紙対応一覧表の「原告動画」欄の「時間」欄に記載の時間の部分は,「場面の説明」欄に記載のとおりの内容であること,②このうち,原告動画の部分1は,⚪️⚪️を被写体とするインタビューの動画の後に,引き続き同インタビューにおける⚪️⚪️の音声を流し続けたまま,原告の会合において⚪️⚪️外1名が漫才を演じている映像を挿入するものであり,原告動画の部分4は,上記挿入された映像の後に続く,同人を被写体とするインタビューの動画であること,③これら原告動画の部分1及び4のインタビューの動画は,⚪️⚪️が自らの体験を語る様子を,被写体の大きさ,撮影する角度等の構図を選択して撮影し,編集したものであり,さらに原告動画の部分1については,上記インタビューの動画に加え,⚪️⚪️が語っている内容に合わせた映像を選択して挿入し,編集したものであることが認められる。
そうすると,原告動画のうち,少なくとも原告動画の部分1及び4は,⚪️⚪️の体験談を視聴者に対して効果的に伝える工夫をした部分であり,著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとして映画の著作物に該当し,著作権法の保護の対象になると解するのが相当である。
進んで,本件動画による著作権侵害の有無についてみるに,①本件動画は,原告動画の部分1~7に加えて原告に関連する動画等を複数合成し,これに音楽を付した2分程度の動画であること,②本件動画の部分1は原告動画の部分1と同一の映像及び音声に,本件動画の部分4は原告動画の部分4と同一の映像及び音声に,それぞれ音楽を付し,画面左下,右下又は中央部に他の映像を部分的に合成したものであるが,このような音楽の付加及び映像の合成によって,⚪️⚪️の談話やその表情など原告動画の部分1及び4の主要部分の視聴が妨げられることはないことが認められる。
そうすると,本件動画の部分1に接した者は原告動画の部分1の,本件動画の部分4に接した者は原告動画の部分4の表現上の本質的な特徴を直接感得し得るものであるから,本件動画の部分1及び4は,上記のとおり対応する原告動画の部分を有形的に再生し,複製したものと評価することができる。
以上によれば,本件動画を作成して本件サイトに投稿する行為は,原告動画のうち少なくとも原告動画の部分1及び4についての複製権及び公衆送信権を侵害するものということができる。
そして,本件の関係各証拠上,著作権侵害を否定すべき事情は何らうかがわれないから,本件動画の本件サイトへの投稿により,原告の著作権が侵害されたことは明らかであると判断することが相当である。
発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無
上記1で判断したところによれば,原告が原告動画の著作権を侵害した者に対して損害賠償請求権を行使するためには,被告が別紙動画投稿目録の「投稿日時」欄記載の日時に「投稿時IPアドレス」欄記載のIPアドレスを割り振った者,すなわち本件動画の発信者その他本件動画の送信に係る者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスを取得することが必要であると認められるから,原告にはこれら発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるということができる。
結論
よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。