大阪高等裁判所平成22年10月21日判決
内縁の夫と内縁の妻との間で、両名が同居していた内縁の夫所有の建物について、内縁の妻が死亡するまで同人に無償で使用させる旨の使用貸借契約が黙示的に成立していたとして、内縁の夫を相続した子から内縁の妻に対する右建物の明渡請求が棄却された事例
考察
愛人になって40年,太郎がひと財産を築けたのは,愛人のサボートがあつたからであつて、本妻のおかげでも,まして相続人のおかげでもない。
その相続人が、父親の死後,愛人に対して,相続した家から出て行けというのは,ふざけんなよ,ということで,裁判所は愛人を勝たせました。
それにしても,一番悪いのは死んだ親父。親父がやりたい放題食い散らかすから,こんなことになる。
愛人囲ってる親父はケジメをつけること。
事案の概要
本件は、丙川太郎の一人娘であり太郎を相続したXが、太郎所有の本件建物に太郎と同居していて同人死亡後も同建物に居住しているYに対し、所有権に基づき、本件建物の明渡しを求めた事案である。
Yは、太郎とYは、平成一六年ころ、内縁の妻であるYが死亡するまで本件建物を無償で使用できる旨の使用貸借契約を黙示的に締結しており、仮に本件使用貸借契約の成立が認められないとしても、建物明渡請求は権利濫用に該当するとして控訴人の請求を争っている。
裁判所の判断
Yは、太郎と男女関係を結んだ昭和四〇年ころ以降、平成一六年まで四〇年近くもの長きにわたり、当初太郎の愛人、その後内縁の妻として、太郎の身の回りの世話をしてきた。しかも、その間、太郎の子を二度妊娠したが、太郎の要請もあり中絶したという事実があった。
そして、平成一六年当時、Yは、太郎から生活費を支給されるほか、格別の収入はなく、この状態は、その後も、太郎が死亡するまで変わらなかった。
Yが太郎の厚生年金・遺族厚生年金を受領するようになったのは、太郎死亡後の平成二一年一〇月からであり、その額も、二か月で三一万九四〇〇円程度であった。
このように、Yは平成一六年当時愛人、内縁の妻として四〇年もの長きにわたり太郎に尽くし、その間妊娠中絶まで経験した反面、十分な経済的基盤も有しない状態であったから、太郎がYの行く末を案じ住処を確保してやりたいと考えることは極めて自然なことであったといえる。現に、太郎は、平成一六年ころXをわざわざ○○の家に呼び出し、同行した甲野やY及びYの兄夫婦の前で、Xに対し、太郎にもしものことがあったら、Yに○○の家をやり、そこに死ぬまでそのまま住まわせて、一五〇〇万円を渡してほしい旨申し渡している。
Yは、太郎から、病床にあった妻花子の面倒を見ることを要請され、昭和五四年ころに数か月間家政婦として花子の身の回りの世話をしたことがあったが、そのころXはYが太郎の愛人であることを知り、以後一貫して、母や自分から太郎を奪った存在として、Yに対し強い敵意、反感を抱き続けているものと認められる。
太郎も、そのようなXの心情を認識しており、Yの将来を案じて申渡しを行ったものと推認することができる。
したがって、本件太郎申渡しは、少なくとも、昭和五四年七月ころ以降二五年以上もの長きにわたり○○の家に居住してきたYが本件建物を退去しなければならないような事態に至ることを太郎が避けたいと考えていたことを示すものと解するのが相当であり、太郎がYを死ぬまで無償で本件建物に住み続けさせる意思を有していたものと優に認めることができる。
Xの夫である甲野も、平成二〇年七月九日にYの長男及び次男と面会した際、太郎がYをかわいく思っていて、○○の家をYにやりたいと言っていたのを何回も聞いている旨や、自分の死後は被控訴人の行くところがないので死ぬまで○○の家に居させてやってくれと太郎が言っていた旨を発言しているところである。
甲野の上記発言は、X側の人間でさえ、太郎の上記のような意思を明確に認識していたことを裏付けている。
他方、Yにおいては、上記のような太郎の意向を拒否する理由は全くないと認められる。